仏教基礎コース

 今から120年ほど前、留学中の新渡戸稲造が著書「武士道」を著したきっかけを、同書の冒頭で次のように紹介しています。

 約10年前、著名なベルギーの法学者、故ラヴレー氏の家で歓待を受けて数日を過ごしたことがある。ある日の散策中、私たちの会話が宗教の話に及んだ。
 『あなた方の学校では宗教教育というものがない、とおっしゃるのですか』とこの高名な学者がたずねられた。私が『ありません』という返事をすると、氏は驚きのあまりに突然歩みを止められた。そして容易に忘れがたい声で、『宗教がないとは。いったいあなた方はどのようにして子孫に道徳教育を授けるのですか』と繰り返された。
 そのとき、私はその質問に愕然とした。そして即答できなかった。なぜなら私が幼いころ学んだ人の倫たる教訓は、学校で受けたものではなかったからだ。そこで私に善悪の作り出されたさまざまな要素を分析してみると、そのような観念を吹き込んだものは武士道であったことにようやく思いあたった。」(武士道:新渡戸稲造著、奈良本辰也訳より抜粋)


 また、哲学者の梅原猛は「宗教のないところには文化は無く、文化のないところには道徳はない」といっています。そして「道徳がなければ親殺しであろうが子殺しであろうが何でもありの世の中になってしまう」と警鐘を鳴らしています。
 敗戦後60余年、昨今の日本は武士道どころか、宗教も、倫理も、道徳も封印されたままです。その結果、自分の権利ばかり主張する人間や、自分さえよければよいという人間が跋扈しています。価値観を支配するのは、経済界に限らず金銭であり利益になってしまいました。まるで、国民総拝金主義信奉者となってしまったのではないかと言うような状況です。まさに今の日本は、120年前のラヴレー氏が危惧していたことが現実のものとなってしまった感があります。親殺しでも子殺しでもあって当たり前の末期的世の中になってしまったのです。
 さかのぼって、江戸時代の日本を見てみますと、識字率は世界最高水準といわれています。そして、もっと素晴らしいのは読み書きそろばんと言うようなスキルの教育以上に、倫理、道徳、宗教などパーソナリテイの教育がなされていたということです。武士は藩校などで、儒教を中心に、庶民は寺子屋で仏教の道徳教育をして人格を高めていたのです。
ですから、かつて、来日したアインシュタイン、チャップリン、ハーン、モースなど多くの外国人は、その教養、品位、礼儀などの高さや、優しさのあふれる国民性に感嘆したものでした。しかし、その彼らも見事に劣化した現在の日本人の状況を見たら、さぞかしびっくりするし、落胆するのではないでしょうか。金儲けはうまいが品格の無い今の日本人は軽蔑こそされ、尊敬されることは無いでしょう。
 われわれは、忘れ去られたかつての日本人の精神を継承していきたいものです。なぜなら、それらの基礎である仏教、儒教、神道などの宗教や、武士道の精神は、他者を思いやる、平和的で、人間に限らず自然とも共生する思想だからです。
 一方、世界に目を向けると、こちらも宗教、経済、環境、軍事などあらゆる分野で「人間中心主義」がはびこり危機的な状況を呈しています。このように荒廃した世界を救えるのは、かつての日本にあった優しさにあふれた共生の思想です。
 しかし、残念ながら現在の日本ではこれらの分野を教育するところは殆どありません。そこで、野木松下村塾は、地方活性化、あるいは人材育成の目的達成の一環として、日本人の精神の根本思想の一つである仏教の基礎を学ぶべく、「仏教基礎コース」を開設しました。(野木松下村塾は、もともとは「経営者基礎コース」と「社会人基礎コース」を設けたのですが、どの分野も究極的には宗教、哲学、倫理、道徳などを抜きにしてその目的を達せられるものではないということです)

※※※※※「仏教基礎コース・レポート」の内容と発刊スケジュール※※※※※

NO. テーマ     内   容        公開日 ヴォリュウム  摘 要       
 古代インド思想と日本  仏教は日本人の精神性に大きな影響を与えていますが、その発祥地であるインドの思想や環境を知らなければ、仏教の理解は難しいので、最初にこのテーマをもってきました。  ’16.2.25
 公開
 
   
2 お釈迦様の教え
三法印・四法印
 諸行無常、諸法無我、涅槃寂静を三つを三法印、これに一切皆苦を加えて四法印といいます。三つ、あるいは四つの仏教の特長と言う意味です。この三つ、あるいは四つの特長を持っていれば仏教、なければ仏教ではないということになります。 ’07.12 公開
3 お釈迦様の教え
八正道
 八正道は中道あるいは仏道とも言われている彼岸への八つの修行方法です。お釈迦様の最初の説法といわれています。現代では、何が正しいか分からない人にとっては行動の道しるべともなっています。
’07.12  公開
4 お釈迦様の教え
六波羅蜜
 波羅蜜とは、彼岸に至るという意味です。したがって、在家信者が彼岸へいくために行わなくてはならない、布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧の六つの修行徳目を言います。

’07.12 公開
5 お釈迦様の教え
四諦
 お釈迦様は、「人生は苦であり、その原因は割愛であり、この割愛を滅すれば苦に悩まされない境地(涅槃)を得ることができる」と、説いています。仏教の重要な教えです。
’07.12   公開
6 お釈迦様の教え
自灯明・法灯明
 「自己をたよりとし、法をよりどころにする」という自灯明・法灯明の教えは、お釈迦様が弟子たちに言い残した最後の説法として有名です。

08.01
公開
7 お釈迦様の教え
四弘誓願
 四弘誓願とは、仏道に目覚め、悟りを得ようとする人が最初に立てる衆生無辺誓願度・煩悩無尽誓願断・法門無量誓願学・仏道無上誓願成の四つの誓いをいいます。
’08.01  公開
8 お釈迦様の教え
七仏通戒の偈
 過去、真理に目覚めてぶブッダ(仏)になられたのは、お釈迦様を含めて7人です。過去七仏と呼ばれています。この七仏に共通の教えが七仏通戒の偈と呼ばれています。
’08.02  公開
 弘法大師の人間観  今般、表題(弘法大師の人間観)のテーマで榊義孝大正大学教授による特別講義が開催されました。弘法大師の教えについては意外と接する機会が少ないので、たいへん貴重な講義でしたのでそのレジメをご紹介します。 ’11.01
 公開
 
   
 現代と仏教  現代では仏教は葬式・法事・墓参りといった死者儀礼ばかりを扱っている感がありますが、本来の仏教は「一度きりない人生を如何によくいきるか」というお釈迦様の教えです。花村勝友元武蔵野女子大学教授の講演会より。 ’11.07
 公開
 、 
   
10   人は死んだらどこへ行くのか  「人は死んだらどこへ行くのか」という疑問について、仏教ではどのように考えているのかについて書きました。悟り、輪廻転生、因果応報などの語彙が出てきますので1の「古代インド思想と日本」と合わせて読んでいただけるとより分かり易いかと思います。 ’20.10
 公開
  
   
11  お釈迦様について  お釈迦様の生涯と、その教えである仏教について。  ’10
 公開予定
 
   
12  仏教について  仏教の生成から発展の過程と変遷について。 ’10
 公開予定
 
   
 13  お釈迦様の教え
縁起
 世の中のものごとはすべて縁りて起こっているという縁起は仏教の基本思想です。だから世の中には、独立自存のものはなく、自分の思うようにはならないことばかりで、人間の苦の原因といわれています。 公開
予定
 
   
14  お釈迦様の教え
十二因縁
 十二因縁は、お釈迦様が人間の苦や悩みの成立を12の要因によって解き明かしたもので、全ての現象は心に原因があり、現在生かされている業(行い)と、前世などの業とともに、現在の幸・不幸がきまるという教えです。 公開
予定
 
   
 15
 般若心経について  仏教は大きく南方仏教と北方仏教(大乗仏教)に分かれます。日本に伝わったのは大乗仏教です。この根本に流れている「空」の思想について学んでいきます。 公開
予定