仏教基礎コース

三法印・四法印



1.三法印・四法印とは

 三法印とは、「諸行無常印」「諸法無我印」「涅槃寂静印」の三つを言います。(時にはこれらを略称して「無常印」「無我印」「涅槃印」ということもあります。)三法印の「印」とは、印章(しるし)という意味です。従って、三法印(さんぼういん)とは、「三つの仏教を特徴づける真理」と言う意味です。この三法印の特徴を持っているものが仏教であり、無ければ仏教ではないということです。この三法印に、「一切皆苦」を加えて四法印(しほういん)とよぶこともあります。

2.諸行無常

 三法印の一つ目は「諸行無常」です。文字通り解釈すれば、「諸(もろもろ)の行(物事)は常(つね)では無い」ということですから、「全てのものは変化する」という真理です。「この真理を活用し、あらゆるものごとをよい方向に変化させていくような前向きな生き方に目覚めよう」というのがお釈迦様の本意です。
 われわれが変化しないと思っている太陽や他の天体をはじめ、地上の山、川、そして植物や動物など宇宙のもの全ては、刻一刻と変化しており、常在のものは無いということです。
 人の一生も例外ではありません。無限の過去から無限の未来へいたる今を生かされているのです。仏教の教えは、その人生を「幸せで意義のある生き方」をするためにはどうしたらよいのかを説いているのです。

⇒展開:時間の大切さ

⇒展開:絶対の存在はない

⇒展開:改革の必要性

⇒展開:松下幸之助の生成発展の哲学

⇒参考:平家物語 

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を顕はす。奢れる者久しからず、ただ春の世の夢の如し。猛き人も遂には滅びぬ。偏に風の前の塵に同じ。」

作者は諸説あるが確証なし。鎌倉時代に成立したと思われる。内容は、平家の栄華と没落を描いた軍記物語である。

⇒参考:方丈記

「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人とすみかと、またかくの如し。玉しきの都の中にむねをならべいらかをあらそへる、たかきいやしき人のすまひは、代々を經て盡きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家はまれなり。或はこぞ破れてことしは造り、あるは大家ほろびて小家となる。住む人もこれにおなじ。所もかはらず、人も多かれど、いにしへ見し人は、二三十人が中に、わづかにひとりふたりなり。あしたに死し、ゆふべに生るゝならひ、たゞ水の泡にぞ似たりける。知らず、生れ死ぬる人、いづかたより來りて、いづかたへか去る。又知らず、かりのやどり、誰が爲に心を惱まし、何によりてか目をよろこばしむる。そのあるじとすみかと、無常をあらそひ去るさま、いはゞ朝顏の露にことならず。或は露おちて花のこれり。のこるといへども朝日に枯れぬ。或は花はしぼみて、露なほ消えず。消えずといへども、ゆふべを待つことなし。』およそ物の心を知れりしよりこのかた、四十あまりの春秋をおくれる間に、世のふしぎを見ることやゝたびたびになりぬ。」

作者の鴨長明(かものちょうめい:1155〜1216)は、50歳にして、すべての地位や名誉や権力お金などのすべてを捨て去って、出家して、京都の洛北大原山に隠棲(いんせい)。後に日野の外山に、小さな方丈(一丈(約三m=約2.73坪)四方)の庵(いおり)に1人住まい、自分について、人の世について、様々考え続けて、「方丈記」を書き綴って、62歳の生涯を終える。 

⇒参考:いろはうた

いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし ゑひもせす

【歌謡の読み方】
色は匂へど 散りぬるを
我が世誰ぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて
浅き夢見じ 酔ひもせず

無常観をうたった歌である。「諸行無常、是生滅法、生滅滅已、寂滅為楽」の意。


3.諸法無我

 三法印の二つ目は「諸法無我」です。文字通り解釈すれば、「諸(もろもろ)の法(現象)には我(孤立)は無い」ということです。つまり、「あらゆる現象(生物、無生物、自然現象)は、それのみで何者にも影響されることなく存在しているというものは無く、すべての物事はなんらかのつながり・関連をもち、もちつもたれつの状態で存在している。」ということです。ですから「世の中の物事は全て自分の思うようにはならない。」だから、人間の苦が生まれることにもなります。ですからわれわれ人間は「自分だけが得をしたいとか、相手を蹴落としたいなどという考えをもって行動することは、天に向かって唾を吐くようなものであり、結局は自分を傷つけることにつながるものである。」ということになります。「あらゆるものごとに感謝する心をもった生き方は、自分はもちろん他の人をもより向上させる行ないになるのです」

⇒展開:縁起

⇒展開:共生(人間だけではなくほかの動物や植物や自然とも)仏教をはじめとする東洋の宗教の特徴の一つ⇔西洋の宗教は人間中心の考え。

⇒展開:松下幸之助の共存共栄、繁栄の経営哲学

⇒展開:亡己利他

⇒展開:DNA(いきとしいけるものはDNAによって過去から永遠へ生かされている。)

4.涅槃寂静

 三法印の三つ目は「涅槃寂静」です。涅槃とは、サンスクリット語の「ニルヴァーナ」を音写したものであり、火を吹き消した状態を指し、寂は不動、静は静かなことの意です。つまり、涅槃寂静とは、煩悩の炎の吹き消された悟りの世界(涅槃)は、静やかな安らぎの境地(寂静)であるということです。
涅槃寂静とは、諸行無常、諸法無我を積極的に活用し、コントロールし、真理に合致した完全な調和安らぎの状態をいいます。
また、涅槃寂静には、涅槃寂静を目指しつつ、諸行無常、諸法無我を研鑽実践し、常に向上していく状態のことも含んでいます。

5.一切皆苦

 この「一切皆苦」を三法印に含めて四法印(しほういん)とする場合もあります。一切皆苦とは、「諸行無常と諸法無我を理解しないで、物事に執着し、変化を嫌い、関係性を断ち、自己中心的な考えや行動しかしないと一切のことがらが苦しみとなる」という教えです。
「あらゆるものは楽・苦・不苦不楽の三種に分けられるが、楽も壊れるときには苦となり、不苦不楽もすべては無常であって生滅変化を免れないので苦となるから、苦ではないものは何もないと言うことで一切皆苦である。」と言うことです。



最後に「うた」を一つ紹介します。いざと言うときの心のよりどころになるでしょう。
私はこのうたをだいぶ以前に妻から教えてもらいました。人生の分岐点や苦境に遭遇したとき、考えの原点に立ち返りポジティブに対応することができました。

人の世は心一つのおきどころ楽も苦となり苦も楽となる