経営者基礎コース第2回

コミュニケーション・スキル

はじめに

 経営者基礎コースレポート第2回のテーマは「コミュニケーション・スキル」です。「コミュニケーション・スキル」(Communication Skill)は一般的には「意思疎通の技能」と訳されています。人は一人では生きていけません。二人以上の人の集まりである社会では、よりよい人間関係は非常に大切です。そのよりよい人間関係を作り出す潤滑油になるのが、コミュニケーション・スキルです。言葉や表情などいろいろなコミュニケーション・スキルを使って、自分を理解してもらい相手を理解することは重要です。しかし最近ではこのコミュニケーション・スキルが減退していると言われています。社会、経済などの変化や、科学の発達などによるものといわれています。産業資本主義が隆盛になるに従い、都市生活者や核家族が増えるなど、従来の農耕型の濃密な人間関係が薄れつつあります。そして、最近のメールやNETなどの普及は希薄な人間関係に拍車をかけています。これらの現象は、企業の経営者にとっても看過できない重要な問題です。そこで、今回のテーマをコミュニケーション・スキルとしたわけです。
 今回は、近年経営の分野でも注目されている、聴くスキルのアクティブ・リスニング(active listening=積極的傾聴)を中心に、話すスキルのアサーティブ(Assertive=主張的な)な自己表現、そしてストローク(stroke=その人の存在や価値を認める言葉、行動、働きかけ)の、新しい技法も紹介しました。

  

              1.企業におけるコミュニケーション・スキルの重要性

 人が一定の目的のために人為的に組織化された集団である企業や会社ではコミュニケーション・スキルの重要性は尚更です。特に、経営者や管理者と言われる人の仕事量の70%はこのコミュニケーションに費やされているといわれています。ですから、組織の目標達成のためには非常に重要なスキルなのです。
 経営学では経営者、管理者の3つの重要なスキルの一つにヒューマン・スキルを上げています。ヒューマン・スキルとはコミュニケーション・スキルを駆使し組織目標を達成することです。特にミドルマネジメントではコミュニケーション・スキルにより組織目標を達成する最も重要なスキルとされています。(表―1参照)


【表-1】                       ※※※管理者に必要な能力※※※

           管理者

スキルの種類
トップ・
マネジメント
(社長など)
ミドル・
マネジメント
(部長など)
ロアー・
マネジメント
(係長など)
意 味
テクニカル・スキル ◎(特に重要) 業務知識など
ヒューマン・スキル ◎(特に重要) 関係調整能力
コンセプチュアル・スキル ◎(特に重要) 問題解決能力

                                                                        

 このコミュニケーションがうまくいかないことをコミュニケーション・エラーといいます。一般の人でもコミュニケーション・エラーが起こると人間関係が悪化したりします。これが経営者や管理者になると会社やステーク・ホルダー(株主や債権者などの利害関係者)などたくさんの人々に重大な損害を与えかねません。そして、仕事で最も大切な「信用」を失うことになります。このように、経営者や管理者が的確に仕事を遂行するためには、意志の疎通(コミュニケーション)ができる技能(スキル)をぜひ習得しておかなければなりません。
 しかし、現実にはどうでしょうか。多くの会社の管理者が、部下に「ほーれんそー、ほーれんそー」(「報・連・相=報は報告の報、連は連絡の連、相は相談の相」と口をすっぱくして叫んでいます。「報・連・相」は取りも直さず職場のコミュニケーション・スキルの基本ですが、それさえもなかなか徹底は難しいのが現状です。

  また、特に若年層のコミュニケーション・スキル不足を危惧する声もあります。次の表―2のようなデータがあります。このデータは各企業の経営者や人事担当者に「新卒を採用するときは何を重視して採用しますか」というアンケートの結果です。ダイヤモンド誌に2005年2月19日号に掲載されたものです。ここでは、コミュニケーション能力(コミュニケーション・スキルと殆ど同義語と解釈してよいと思います)という表現になっていますが、第3位に入っていて企業側の関心の高さが伺えます。


【表―2】      ※※※新卒を採用するときは何を重視して採用しますか※※※            

順位 重 視 点 得 点 摘  要
1 積極性 92.3
2 責任感 86.6
3 コミュニケーション能力 83.4
4 協調性 78.9
5 健康状態 74.2
6 業務・社風への適性 69.9
7 感情の安定性 69.1
8 リーダーシップ 65.2
9 論理構成力 64.3
10 会社や仕事への理解度 55.0
11 一般的な教養 52.0
12 専門的な知識技術 44.5
13 筆記試験の成績 42.3
14 クラブ・サークル活動の経験 35.2
15 大学での成績 31.1
16 語学力 30.5
17 パソコンの習熟度 30.0
18 アルバイトの経験 26.3
19 大学名 21.4
20 資格の有無 19.6
*それぞれの重視点について、A非常に重視しているBある程度
重視しているC重視していないの三択でAに2点Bに1点Cに0点
を加え、平均値を50倍したもの

 また、質問を変えて、「ここ数年で重視するようになった採用基準は何ですか?また、重視しなくなった採用基準は何ですか?」との質問には、同じく企業の人事担当者は表−3表−4のように答えています。

【表−3 】           ※※※ここ数年で重視するようになった採用基準※※※

順位 ここ数年で重視するようになった採用基準項目 回答数 摘 要
1 コミュニケーション能力 120
2 積極性 51
3 行動力 36
4 ストレス耐性 32
5 語学力 30
6 会社や仕事への理解度 28
7 専門的な知識技術 27
8 論理構成力 27
9 課外活動の経験 21
10 業務・社風への適性 19
11 自主性 18
12 協調性 17
13 問題解決能力 15
14 明るさ、学生らしさ 14
15 一般常識 13
16 創造力 13
17 パソコンの習熟度 12
(注)ここ数年で重視するようになった採用基準をフリーアン
サーで回答してもらい、編集部で内容を判断して集計した。
赤字は表―1になかった項目。




【表―4】        ※※※ここ数年で重視しなくなったなった採用基準※※※

順位 ここ数年で重視しなくなった採用基準項目 回答数 摘  要
大学名 92
大学での成績 46
筆記試験の成績 36
協調性 14
資格 13
課外活動の経験 10
語学力 9
専門的な知識技術 9
積極性 8
10 アルバイトの経験 8
11 体育会出身である 8
12 リーダーシップ 6
13 パソコンの習熟度 4
14 教授の推薦 4
15 業務・社風への適性 3
16 外見 3
17 一般常識 2
(注)ここ数年で、重視しなくなった採用基準をフリーアンサーで回
答してもらい、編集部で内容を判断して集計した。青字は表-1に
なかった項目

  表ー3、表ー4から、経営者は学校名などのウエイトを下げるとともに、コミュニケーション・スキルのウエイトを高くしていることが読み取れます。このことは、現場ではコミュニケーション・スキルの重要性を認識しているが、その能力に不満を感じているということです。

          2.コミュニケーション・チャネル

 次に、コミュニケーション・スキルを、チャネル(channel=方法)別に見てみます。人はどんな方法でコミュニケーションを図っているのか?その種類を整理し、図表にしたものが表―5です。(研究者によって分類の仕方が若干異なることがあります)

表ー5            ※※※コミュニケーション・チャネル※※※
                     

 コミュニケーション・チャネルは大きく分けて、「言語的コミュニケーション」と「非言語的コミュニケーション」に分けられます。次にそれぞれのチャネルの特徴といかに効果的にそのチャネルを使かったら良いのかについて見てみましょう。

                  (1)言語的コミュニケーション

 言語的コミュニケーションとは、「言葉」によるコミュニケーションです。、コミュニケーションの中でも最も重要なもので、その内容は表ー6のようなものです。


表ー6           ※※※言語的コミュニケーション・チャネル※※※                 

言語的コミュニケーションの項目 内  容 
1 声の高低            
2 速度
           
3 アクセント(音響学的・音声学的)            
4 間の取り方            
5 発言のタイミング(発言の時系列パターン)などが含まれます

                (2)非言語コミュニケーション

 『二者間の対話では言葉によって伝えられるメッセージ(コミュニケーションの内容)は全体の35%に過ぎない。残りの65%は話し振り、動作、ジェスチャー、相手との間の取り方など言葉以外の手段によって伝えられる。』(ヴァーガス1987〜)」の言葉が示すように、非言語コミュニケーションの意義は通常想定されている以上に大きいといわれます。非言語コミュニケーションには次の表ー7ようなものがあります。


表ー7          ※※※非言語ココミュニケーション・チャネル※※※                 

項目 非言語コミュニケーションの種類 内        容
身体的動作 目(目又は視線)  昔から多くの研究者が目の使いかたやアイコンタクト(注視)の重要性に注目し研究しています。その結果、目によるメッセージは10%から80%と非常に個人差が大きいという特徴が確認されました。サッカーの試合で「アイコンタクト」という言葉が使われているのは皆さんご承知の通りです。また、日本では諺に「目は口ほどにものをいい」とあるように目の効果については昔から認識されています。
ジェスチャー 説明の必要性もないほど明快ですね。
姿勢 これも説明の必要性もないほど明快ですね。私はだれと話すときも自然体を心掛けるようにしています。
身体接触  例えば初対面では握手をしたほうが相手は親近感を持つことが、実験結果としても認められています。スポーツ選手、選挙の立候補者たちが、後援会やファンなどと握手をするのも肯(うなず)けると言うものです。
 また、最近の公共広告機構のコマーシャルで子供への愛情表現が分からない親に子供を抱きしめてくださいというのがありました。
顔面表情
環境的側面 対人距離  相手とは適当な間隔が必要です。 手を伸ばしてぶつかる範囲まで他人が近づくと、人は緊張したり、警戒します。
着席位置  例えば、会議で下の図ー1のような座席のとき、座る位置によって発言力の大きさが大きくなったり、小さくなったりするという研究結果があります。心理学では@、B、Dをリーダーの席といっています。問題解決のため会議を積極的に引っ張りたい人や、自分の存在をアピールしたい人は@、B、Dの席が効果的です。、そしてもっともっと精力的に会議を引っ張って生きたい人は@、Dの席が良いとされています。一方、会議の出席者の対人関係を重要視して、民主的に会議を進めたい人はBが良いとされています。
人工物の使用  被服、化粧、アクセサリーなどを言います。これらは良きにつけ、悪しきにつけコミュニケーション・スキルの重要な要因の一つです。
飲食  営業マンは料亭、クラブ、レストランなどの接待営業と言うのがありますが、飲食をしているときはそれ以外のときに比較して緊張感が取れてよりコミュニケーションがとれて、商談がまとまるケースが多いといわれています ?
10 環境コミュニケーション  場所、家具、証明、温度などがあります。





 図ー1                 ※※※リーダーの席※※※


              

              3.アクティブ・リスニング(聴くスキル)

 いま、聞くスキルとして、カウンセリングの分野で開発されたアクティブ・リスニングが、経営の分野でもビジネス・コミュニケーション・スキルの手法として注目され、積極的に採用されています。そこで、ここではアクティブ・リスニングについて見てみましょう。

                  (1)アクティブ・リスニングの意義

 日本では一般には「積極的傾聴」と訳されているアクティブ・リスニング(active listening)はもともと、アメリカの心理学者でカウンセリングの神様と言われたカール・ランサム・ロジャース(ウイスコンシン大学教授)によりカウンセリングの手法として開発されたものです。内容は、「相手の考えや気持ちを相手の立場に立って理解する聴き方で、このことにより相手が自分自身を理解し、自信ある行動が出来るよう助力する聞き方」であると言えます。(「聞く」は小鳥の鳴き声などを聞くなどと使われますが、積極的傾聴の「聴く」は話し手の話しの内側の気持ちを「聴く」の違いが有ると言われています)。
 アクティブ・リスニングと言うと受動的のように聞こえますが、一貫して耳を傾けることによって、次のような考えが伝達されます。「私は人間としてのあなたに関心を持っている。あなたが感じていることは重要であると思う。あなたの考え方を尊重するし、たとえそれに賛成できなくても、それがあなたにとっては妥当だと言うことを知っている。あなたを変えたり、評価したりしようとはしない。ただあなたを本当に理解したいだけだ。私があなたの話に乗る人間であることを知ってもらいたい」
 また、相手を尊敬していることを、言葉によって信じ込ませることは難しいが、アクティブ・リスニングはそれを行動を通じて示すというものです。他の行動と同様にアクティブ・リスニング行動も感染します。「己の欲することを人に施せ」と言われるように、本当にアクティブ・リスニングされ、理解されたいなら、まず自分がこれらの方法を身に付け、話し手の言うことを理解と尊敬をもって真にアクティブ・リスニングするのが良いということになるでしょう。

                  (2)事 例

 次の表ー8の事例をA(左側)とB(右側)を比較しながら読み比べて見てください。


 表ー8                ※※※ 事   例 ※※※                                                       

【事例Å】
【事例B】
職長 「係長、こんな生産命令は受けられませんよ。今日中にはとてもやれません。(会社は)我われを何だと思っているのでしょうね」 職長 「係長、こんな生産命令は受けられませんよ。今日中にはとてもやれません。(会社は)我われを何だと思っているのでしょうね」
係長 「だが(会社の)命令なんだ。できるだけ早く片付けてくれ。今週はとても忙しいんだ」 係長 「職長、大分怒っているようだね」
職長 「プレスの故障で既に予定が遅れていることは伝えてないんですか?」 職長 「そうですよ。プレスの故障後、ちょうど予定に戻ろうとしていたところへ、この問題ですからねえ」
係長 「職長、上(会社の)のことは分からんよ。とにかく、仕事が片づいてくれればいいんだ。それが私の仕事なのだ」 係長 「まるで君らに十分な仕事がないみたいだね」
職長「そうですよ。どうやって部下たちに話したらいいか分かりませんよ」
職長 「部下たちがどう思いますかね」 職長 「そうですよ。どうやって部下たちに話したらいいか分かりませんよ」
係長 「それは君が何とかすることであって、私の知ったことじゃないよ」 係長 「こういうことは、今は(部下に)言いたくないって訳だね」
職長 「本当ですよ。今日はみんな本当に無理しているんです。ここじゃ何でも急げ急げですからね」
係長 「君は彼ら(部下に)にこれ以上負担をかけるのはよくないと思っているようだね」
職長 「まあそうです。ラインのどの階層にも圧力がかかっているに違いないことはわかりますがね。・・・とにかくそんな具合なら、私からみなにそういったほうがよさそうだ」

(嘉味田朝功著「行動科学」産能大より抜粋)

 A(左側)とB(右側)の違いお解かりになりましたか。両方とも最初は同じ会話だったのが最後には別の結論になっています。このB(右側)がアクティブ・リスニングによる会話といわれています。   

                  (3)アクティブ・リスニングの基本技法・態度

 アクティブ・リスニングを行うための基本的な技法・態度をまとめたのが次の表ー9です。


表ー9        ※※※アクティブ・リスニングを行うための基本的な技法・態度※※※            
     
基本的技法 内            容
受容的態度  聞き手は、取敢えず話し手の話をそのまま聞こうとする姿勢です。具体的には、うなずき、相槌、繰り返しなどにより、話し手に寄り添う態度を示すことです。(話しの良し悪しを判断したり、忠告したり、評価したり、批判などはしない)
再陳述(繰返し)  聞き手は、話し手の発言のポイントを捉えて繰り返します(そのためオウム返し技法といわれることもある)。具体的には、話し手が「今の仕事は辛くって」と言った場合、聴き手が「仕事が辛いのですね」と返す。あるいは「こういうふうに理解しましたが」と話し手と同じ言葉で繰り返します。そうすることにより、話し手は自らの発言内容を確認できます。
感情の反射  話し手の感情的が高ぶっているときに、話し手の今の感情を捉えて、同じ言葉で繰り返す。例えば、話し手が「理不尽なA課長を殴ってやる」と言ったとき、聴き手が「A課長を殴るのですね」と返します。このことにより、話し手は自分の感情を他者の口から聞くことにより、再認識することが出来ます。
共感的態度  前1、2、3項では、自分を無にして、話し手の話を受け入れるだけでしたが、ここで初めて聴き手の自分の気持ちを出します。具体的には、「それで良いんです」「私もそう思います」などと話し手の話しを支持(共感)することによって、話し手に自信を持たせることにより、話しを前に進められます。話し手の気持ちを最大限理解しようとつとめ感心を持って聞いている事を伝えます。
質問  質問には2種類あって、一つは「閉じた質問」と言われる尋ね方で、この場合相手は「はい」「いいえ」「○○です」等の限定された答え方になります。はっきりした答えであるがゆえ、本心は掴みづらい。例えば、警察官の職務質問がこれに当たります。「免許証を見せて下さい」など。
  もう一つは、「開いた質問」と言われる尋ね方で、答えの選択肢がいろいろあるとき「どんなふうに〜」とか「どのように〜」というように質問をします。話し手は自分の言葉で答えざるをえなくなり、本心・本音を引き出すことができます。聴き上手は質問上手です。どのように質問して話し手の気持ちを引き出すかは重要なスキルです。閉じた質問と開かれた質問を使い分けることが肝心です。
要約  聴き手は、話し手のそれまでの発言をある程度のところで纏めて伝えます。このことにより話し手との問題の認識が共有できます。そして、話し手は聴き手が話しを正確に聞いて貰えていることを知って安心できます。また、それまでの話しを整理することもできます。
全ての手がかりに気を配る  全てのコミュニケーションが言葉だけで行われている訳ではありません。声の抑揚、顔の表情、身振り手振り、目配り、息遣いなど、前述したコミュニケーション・チャネル全てが話し手の内面の微妙な動きを知るのに助となります。例えば、 話し手がためらっていること自体、話し手の感情について多くを語っているわけです。
座り方

 アクティブ・リスニングは、話し手の内面、本心を理解することが目的ですので、座る位置も図−2のように座ります。ポイントは聴き 手が話し手の斜め45度前に座ることです(話し手の正面の席は敵対的座席になりますので避けましょう。交渉などではこの席です)。また、リーダーの席は非言語コミュニケーションのところで記述した通りです)




 図ー2      ※※※アクティブ・リスニング上の聴き手の座席※※※

                  

                  (4)アクティブ・リスニングで避けるべきこと

  アクティブ・リスニングを行う上で、次の表ー10の項目は、その阻害要因となりますので避けなかればいけません。


表ー10          ※※※アクティブ・リスニングで避けるべきこと※※※                 

避けるべき事項
内             容
判断  聞き手は話し手の話についての「判断」は避けなければなりません。聞き手が話し手の言ったことについて判断してしまうと、話し手はそれ以上の話しができなくなってしまうからです。
忠告  聞き手は話し手の話についての「忠告」は避けなければなりません。忠告は大体において相手を変えようとする努力であり、相手を自己防衛のカラの中に閉じ籠もらせてしまうからです。そのうえ忠告は殆ど実行されないと言う特徴があります。
評価  聞き手は話し手の話についての「評価」は避けなければなりません。人を褒(ほ)める評価は、人を貶(けな)す評価と同じくらい、お互いの関係を壊すことがあります。「あなたは有能だ」と褒(ほめる場合、話し手に「過去に大きな過ち」が有ったり、話し手に「能力がない」と信じているような場合は、話し手はそれ以上の話しが、し難(にく)くなります。
励まし  聞き手は話し手の話についての「励まし」は避けなければなりません。励ましも話し手をある方向に動機付ける試みと看做(みな)されからです。「万事が旨くいくに違いないよ」と言うのはひどく失望している人に対する有効な答ではありません。
好悪の感情や先入観  聞き手は話し手の話についての「好悪の感情や先入観」を持って聞くことは避けなければなりません。聴き手が、自分のフィルター(思い込み、刷り込み)を通して話し手の話を聞くと、話し手の発言内容を正確に理解できなくなり、話し手の伝えたい気持ちを感知できません。
自己防衛  聞き手は話し手の話について「自己防衛的になること」は避けなければなりません。聴き手は、話し手の発言が、批判的だったり、攻撃的だったりすると、怒りや苛立ちを感じて、言い訳、言い逃れ、反論をして、話し手の気持ちを無視してしまうことになってしまうからです。
過剰な感情移入  聞き手は話し手の話について「過剰な感情移入」は避けなければなりません。話し手の発言内容に刺激されて、同情したり、怒ったりすると、客観性を失ってしまうからです。
感心の偏り

 聞き手は話し手の話について「関心の偏り」を避けなければいけません。自分が感心を持つ部分のみ聞こうとしたり、特定の事柄に注目しすぎると、話の全体を理解することが難かしくなってしまうからです。


                 (5)アクティブ・リスニングの効果

 積極的傾聴には、次のような効果が期待できます。

@話し手は、尊重されていると感じて、聴き手に対する信頼感が生まれます。

A話し手は、感情を発散できる。心理学でいうカタルシス的効果(抑圧された精神的苦悩を積極的に表出させてコンプ
 レックスを解消する療法)があります。


B話し手は、本心が話しやすくなります。

B聴き手は、話し手が本当に言いたいことをつかむことができます。

       4.アサーティブな自己表現(話すスキル)

  話すスキルとして、今、注目されているのがアサーティブな自己表現方法です。そこで、ここでは、その概要を述べます。

                  (1)自己表現の3つのタイプ

  自己表現方法には表ー11のように3通り方法があると言われています。


表ー11               ※※※自己表現の方法※※※                        
    
                                      
自己表現方法 自己表現方法の内容
1 アグレッシブ(攻撃的)な自己表現  自分の主張は大切にするが、相手のことはあまり考えない自己表現方法です。例えば、バスに割込みがあったとき。「コラ、ここはみんな並んでいるんだ後ろへ並べ」と怒鳴るような自己表現方法です。結果として、自分の考えを相手に押し付けることになります。自分は○だが、相手は×な自己表現方法です。
2 ノン・アサーティブ(非主張的)な自己表現  相手への配慮に重点があり、自分の考えや意見を言わない自己表現方法です。例えば、バスに割込みがあったとき。「・・・」と黙って我慢してしまう自己表現方法です。結果としてストレスが溜まることになります。自分は×だが、相手は○な自己表現方法です。
3 アサーティブ(さわやか)な自己表現  自分も相手も大切にする自己表現方法です。例えば、バスに割込みがあったとき「ここは皆さんが並んでいます。後ろに並んでください」と自分の意見もきちんと言うが相手の立場にも配慮する、自分も○、相手も○な自己表現方法です。

                  (2)DESC法

 アサーティブな自己表現を実現させるためには、相手も乗ってこられる環境作りが必要です。そこで有効なのがDESC法と言われています。この方法は次の表ー12の項目を踏んで自己表現をする方法です。


 表ー12            ※※※自己表現の方法※※※    
                          


DESCの項目
内  容
1 Describe 説明 (相手と共有できる客観的事実を自分の感情を交えず表現します)。
2 Express Explain 表現 説明 相手の行動などに対する自分の感情や、気持ちを建設的に表現・説明します。
3 Specify 明示・明記 自分が相手に望む行動提案解決策などを提案します。
4 Choose 選択 自分の提案に相手がどう反応するのか。その出方を予想して、自分がどう行動するか選択肢を想定しておきます。

                  (3)自分の気持ちを正確に伝える方法(LADDER)

 アサーティブな自己表現を実現させるスキルとして、次の表ー13のLADDERの手順を踏むことにより、自分の気持ちや考えを正確に伝えることが出来るとされます。、


 表ー13           ※※※LADDERの手順※※※                              
                   

LADDERの項目 LADDERの内容
1 L Look At 振り返る  自分の気持ちを振り返ることです。「困っている」「反対である」など相手に伝えたい自分の気持ちを明確にしておくです。
2 Arrange 整頓・準備  相手に切り出すTPO(time(時間) place(場所)occasion(場合))を決めておくことです。
3 Define Problem Situation 定義・問題・立場  自分の抱えている問題を明確にしておくことです。
4 E Express 表現  以上のLADの自分の気持ちを表現することです。
5 R reinforce 補強  自分の提案に相手が乗りやすく味付けをすることです。「そうすることにより、あなたにメリットがあるはず」などのメッセージを添えます。

           5.ストロークという考え方

 ストローク(stroke)とは心理学で、その人の存在や価値を認める言葉、行動、働きかけを言います。ストロークにはいくつかの分け方があります。

                    (1)「投げるストローク」と「受けるストローク」

 一つ目の分け方は、「投げるストローク」と「受けるストローク」です。例えば「こんにちは」とAさん。すると、Bさんが「こんにちは」と返しました。続いて「お出かけですか」とAさん。Bさんが「一寸そこまで」と笑顔で返しました。このケースでのAさんが投げるストローク、Bさんが受けるストロークです。人には投げるストロークが得意な人と、受けるストロークが得意な人、それに「両方とも不得意な人」がいます。・・・両方得意な人は

                (2)「肯定的ストローク」と「否定的ストローク」

 二つ目の分け方は、「肯定的ストローク」と「否定的ストローク」です。肯定的ストロークは、それをもらったら嬉しくなるもの。例えば、「挨拶」、「握手」、「抱きしめる」、「褒める」、「感謝の言葉」、「微笑む」などです。一方、否定的ストロークとは、それをもらうと嫌な気持ちになるものです。例えば、「殴る」、「怒鳴る」、「非難する」、「睨む」、「命令する」、「嘲笑する」などです。肯定的ストロークの効果として、相手を「成長させたり」、「意欲を引き出したり」、「心が満たされたり」します。子供の場合に、親から十分な肯定的ストロークがないと否定的ストロークでもいいからもらおうとします。例えば、次男が生まれ、かまってもらえない長男が物を壊したりして母親の注目を引こうとするような行為です。

                   (3)「条件付きストロークと」「無条件ストローク」

 三つ目の分け方は、「条件付きストロークと」「無条件ストローク」です。条件付きストロークとは、何らかの条件を満たしたら与えられるものを言います。例えば、試験で「100点取ったから褒美を挙げる」の様なものです。この条件付きストロークばかりで育った子供は、自分に自信が持てなくなり、常に他人の評価を気にするようになり、反抗的になったりします。
 一方の無条件ストロークは、相手の人格とその存在そのものに与えられるものです。例えば子供を「抱きしめる」、「あなたがいるだけで私は幸せよ」などです。
この無条件の肯定的ストロークの効果は、相手の自信に繋がり、相手の成長を促し、相手の生きる意欲を引き出します。

                    (4)「あったか言葉」と「ちくちく言葉」

 これはある小学校の教師が、「以前の小学生はけんかをしても自然に仲直りできたが、最近の小学生は一度けんかをするとなかなか仲直りできない」という状況を何とかできないだろうかと考えたた結果作り出した方法です。
 「ありがとう」「仲良くしよう」「こんにちは」「お疲れ様」など相手がうれしくなる言葉を「あったか言葉」とし、みんなで言葉に出したり、書き出したりするようにしたのです。逆に相手がいやな気持ちになる言葉を「ちくちく言葉」とし、ノートに書き出し、お互いに使わないようにしました。その結果、けんかの数も減少し、けんかをしてもあったか言葉により仲直りができるようになったというものです。 大人の世界でも参考にすべき点は多いと思います。

あとがき

 今、サラリーマンの60%は心を病んでいると言われています。失職者に至ってはその割合は90%以上と言われています(そのため、厚生労働省は新規に5万人のキャリア・コンサルタントという新規の資格を創設してその対応に当たっています)。また、学校においても多くの子供たちが不登校や薬物そしてリストカッターなど心を病んでいます。そして、家庭においても家庭内暴力などが、社会問題になっています。これらの原因の一つはコミュニケーションに問題があると思われます。
そして、これらの解決にはコミュニケーション・スキルアップが欠かせません。今回は、「コミュニケーション・スキル」、とりわけその中でも最も注目されている聴くスキルの[アクティブ・リスニング]を中心に、[アサーティブな自己表現]、[ストローク]をご紹介しました。ただここで注意したいのは、これらはあくまでもスキルであることです。人間性を高めたうえでのコミュニケーション・スキルのアップになります。
 企業経営においても、労務管理、顧客管理などいろいろな場面で、コミュニケーションは避けて通れない問題です。今回のレポートをきっかけにコミュニケーション・スキル・アップのきっかけにして頂ければ幸いです。

参考文献:
斉藤愛子著「ビジネスコミュニケーション・スキルズ」文真堂
嘉味田朝功著「行動科学」産能大、
榊原清則著「経営学入門」日本経済新聞社、
樺旦純著「心理トリック」王様文庫
浮世満理子著「プロカウンセラーのコミュニケーションが上手になる技術」あさ出版