第7回経営者基礎コース

仕事の出来る人、出来ない人


まえがき

 第7回のテーマは「仕事の出来る人、出来ない人」です。
 最近、「格差社会」、「フリーター」、「ワーキング・プアー」、「下流社会」、「勝ち組、負け組」などという言う言葉が頻繁に聞かれます。なかなか就職できない、仕事があっても給料が安くて生活が出来ないなどという人たちが急増しています。一方では、最近完成した東京六本木のミッド・タウンの高級賃貸マンションは、4LDKの賃料が月額で500万円という高額にもかかわらずすぐに満杯になったという報道もされています。
 このような格差現象を憂慮して政府もいろいろ政策を検討しています。しかし、いろいろ分析すればするほどこの傾向は、今後はますます顕著になって行くと言わざるをえません。
理由はいろいろありますが、その大きな要因の一つは経済のグローバル化です。「誰でも出来る仕事」は、世界最高水準の賃金の日本でするよりも、その数十分の一の賃金水準の発展途上国で作った方が低コストで作れるからです。コストが低く抑えられれば安く販売できますから、競争力があり、たくさん売れると言うわけで、経営者なら誰でも考えることです。その結果、日本など先進国では産業の空洞化、リストラ、賃金の抑制などが行われ、格差が生じてきているわけです。労働分野でも今までは国内の競争ですんだものが、これからは世界中の人を相手にした競争が繰り広げられるのです。ですから今までは日本で仕事が出来ない人でも、有る程度の収入が得られ、ある程度の生活が見込めたのですが、今後は世界中の仕事が出来ない人と類似の収入しか得られなくなり、厳しい生活が待っていることになるのです。そして、このような傾向は世界的な規模で進展しているのです。
ところで、私のビジネスマン生活から改めて現実のビジネス界を振り返って見ますと、前述のような環境の変化にもかかわらず、「なんとなく昨日と同じように今日を過ごしている」人が非常に多いのです。そこで、この人たちの特徴を思い出すままに次に列挙してみました。
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@「仕事のできる人」は少ない
 1990年ころまでは国民の7〜8割の国民は中流であると言う認識でしたが、現在は、年収300万円以下の下流と言われる人々が急増しています。そして将来はアメリカのように、上流は1%以下で、99%以上の国民は下流という構成に近づいていくといわれています。
 「仕事の出来る人」の割合も、これに符号してビジネスマンの1%以下です。と言うことは、企業の存続はごく少数の「仕事の出来る人」と、既存の顧客・ブランド力などの会社の力で維持されていると言うことになります。

A「仕事のできる人」には仕事のできる人の「人脈」がある
 「仕事のできる人」は、「仕事のできる人」と付き合うため、「仕事のできる人」の「輪」、すなわち「仕事のできる人」の「人脈」ができます。仕事の成果はその中に入らなければ挙げられないのです。逆に、「仕事の出来ない人」は「仕事が出来ない人」の「輪」の中に入っているということになります。

B「仕事のできる人」には、「良い情報」がある
 「仕事のできる人」には、良い情報があります。良い情報の要件は「迅速」と「正確」です。仕事のできる人は、情報をなるべく発生源または、川上でキャッチしますから情報としての「鮮度」と「希少価値」があるのです。しかし、情報を川上でキャッチするのは難しいものです。ですから、「仕事の出来ない人」は、楽に情報収集ができる情報の流れの川下で掴もうとしてしまいます。この時点での情報はみんなが知っている話なので、これは情報とはいえません。従って、業績を挙げることが出来ないのです。

C一つの仕事ができる人は他の仕事をさせてもできる
 一般的には、一部の仕事を除けば、仕事でそんなに難しいものはありません。そして、仕事はどの仕事も、その本質は同じで、普遍的です。従って、仕事の本質が解る人はどの仕事も同じようにできます。逆に、仕事の本質が解らない人はどの仕事をやってもできないということになります。仕事が出来るか出来ないかの判別は、別な職種、別な会社でも前の職種、前の会社と同じように仕事をこなせるか否かを観れば解ります。

C早く出勤するのは仕事のできない証明?
 時には明確な理由で早朝出勤する人もいますが、仕事もないのに始業時間のずいぶん前に出勤する人がいます。これは自分の仕事に「自信がない人」で「仕事の出来ない人」と言わざるをえません。組織のリーダーがこういう人の場合、職場全員が付き合い早出をして、みんなで時間つぶしをしている組織も見受けられます。こういう組織では業績は挙がっていません。

D仕事は「仕事のできる人」に集中する
 仕事は「仕事のできる人」に集中します。そのため、仕事のできる人は「忙しい」はずだが、仕事のできる人はそんなに忙しがりません。それは、仕事の本質を理解しているし、そのための最も効率のよい仕事の進め方・段取りができるからです。だから、後述しますが「いそがしい、いそがしい」といっているのは仕事の本質が解らない、段取りがよくない、「仕事のできない人」の証明なのです。

E日本の企業のキャリアは他の企業では殆ど通用しない
 残念ながら日本の会社でのキャリアは、その会社の中でだけ通用するもので、他の会社では殆ど通用していません。(アメリカでは、スキル・アップするために転職を繰り返し、スキルはスパイラル状に上がっていきます)

F能力は自分の能力+企業の力である
 ビジネスマンの能力は自分の能力+企業の力です。特に、大企業はその傾向が著しいのです。ブランド力、人脈、資金力、情報力など大企業の力は社員の創造以上のものがあります。営業マンなどは現場で実感しているはずです。この力を自分の能力と勘違いすると判断を誤ることになります。

G「肩書き」と「仕事ができる」とは別物である
 日本の企業の場合、仕事ができないから解雇されることはほとんどありません。しかし、「仕事のできる人」の場合、会社を辞めるケースが結構多いのです。理由の一つは、業績の評価法によるものです。残念ながら日本の人事評価の最大の要因は上司の好みです。業績が数字などでキチンと把握できる場合は良いが、そうでない場合、「仕事のできる人」の評価は分かれます。特に、「仕事のできる人」は仕事に対してキチンとした意見を持っています。そういう人は、仕事ができない上司の場合扱いにくい存在であり、評価されにくいと言わざるをえません。「社長以上の人材はその会社には存在しない」といわれる所以です。
また、大企業の取締役で「仕事のできる人」には、あまりお目にかかったことがないという実情から、「仕事ができる」と、「出世」とは別物といわざるを得ません。

H「有資格者」と「仕事ができる」とは別物である
 いうまでもなく、資格試験はペーパーテストがほとんどです。ですから、ペーパーテストが得意なタイプの人ならば、ある程度の努力をすれば合格できます。資格を取ったので独立しますという人もいますがほとんどの皆さんが悪戦苦闘しています。また、この試験に合格した有資格者=仕事ができる人と勘違いしている人事担当者が結構います。「資格を持っているんだから仕事もできるだろう」と採用したところ、仕事がさっぱりできないので、どうしてだろうと頭を抱え込んでいる人事担当者は多いのです。。これは当たり前の話で、資格試験は自分の能力のスキルの部分だけの問題なのに対して、仕事ができるとは、自分のスキル以外のたくさんの要因があり、もっと幅広い能力が必要になってくるからです。

I自分は解っているが相手が理解できなければ仕事をやったことにはならない
良し悪しは別として、役所の仕事はこのやり方です。しかし、民間ではこのやり方は通用しません。「仕事の出来ない人」の中には、このタイプの人が相当います。相手が理解して初めて仕事が始まるのです。

 われわれが充実した人生を送るためには、前述した大きな流れを認識し、物事の本質を見通す力を身につけ、仕事が出来る人になることが前提になります。そこで、今回のテーマを「仕事の出来る人、出来ない人」としたわけです。 ここで言う「仕事が出来る人」というのは、一言で言えば「仕事の普遍的な本質が解っている」言い換えれば、「相手の満足を得られる仕事が出来る人」と言う意味です。(「相手」とは、「営業ならば顧客などを想定していますが、社内で仕事をやっている人ならば上司などを想定しています」。また、「満足を得られる仕事」とは、「品質、価格、期限などで、相手に納得し、満足し、信頼してもらえる内容の仕事」と言うことです。ですから「自分はこんなに一生懸命にやったのに」とか「自分としては100点満点だ」という自己満足の仕事ではありません)。これらの仕事が出来る人には共通の特徴があります。そこで、その共通の特徴から見て行きましょう。
 

1.「仕事の出来る人」に共通の特徴

(1)相手の信用を得られる人

 多くの仕事は人との接触が不可欠の要素です。ですから、仕事をする上で最も基本的な要件として、相手(顧客、同僚、上司、部下など)に仕事のパートナーとして信用してもらえることが重要です。相手から信用してもらうためには、こちらがそれだけの能力を持った人間であることが必要になってきます。ここでいう能力とは第6回で述べたようにスキルとパーソナリテイです(第6回経営者基礎コース「リーダーの条件」参照)。

三方よし
(日本には古くから近江商人の間に「三方よし」という教えがありましたので,参考までにご紹介します)
商売人として多数の成功者を出している近江商人の商売は、若いときは他国で行商をし、実力を蓄えて、最終的には自分の店を持つというやり方です。旅先の他国での行商がいかに大変かはやった人でないとわからない苦労があったと思われます。そのような他国で見知らぬ人々を相手の商売で最も大切なのは顧客の信頼を得ることでした。そのための商売の心得として説かれたのが、売り手よし、買い手よし、世間よしの「三方よし」という教えです。商売は、売り手と買い手の当事者だけでなく、世間の為にもなるものでなければならないと言う教えです。

@業務知識がある
  まず、スキルですが、ここでは「業務知識」になります。顧客が納得し、満足できる「業務知識」が求められます。
業務知識があるということは、次の三つが解るということです。

 (@).商品知識がある
  自分の扱っている商品の知識をキチンと把握していることです。顧客から「この商品はどういう商品ですか?」と質問されたときに、「この商品は○○です」と即座に答えられる商品知識は最低限必要ですが、それだけではまだ不足です。。「どうしてですか?」と質問されたときに、その根拠を具体的に説明できるレベルまでの知識を持つことが必要です。例えば、そのとき「それは、○○法の第○条に定められています」のように関連法令で説明するが如くです。また、自社の商品知識だけでなく業界やライバル会社の同一商品と比較検討し、それぞれの特徴とメリット、デメリットも把握し、説明できるようにしておきたいものです。そこまで説明できて、初めて顧客のニーズに答え満足を得る商品知識があると言うことです。
 

こんな実例がありました。作り話や、笑い話ではなく本当にあった話です。私も立ち会いましたから間違いない
話です。
国沢営業課長「前回お伺いしたときに、ご質問がありました技術についてご説明しようと思いまして、本日はお
約束の通り、当社の技術部長を連れて参りました」。
顧客の三井さん「それでは、前回質問した建物の強度について説明してください」。
佐藤技術部長「その件については難しい話なので、次回に担当課長をつれてきて説明させましょう」。

 (A).原価が解る
 顧客の最大の関心事の一つが価格です。「いくらですか?」という質問は必ずあります。また、その後の価格交渉にしても、その商品の原価構成が解らないとできません。ですから自分の扱っている商品の原価構成を知って於くことは必要です。そして、そのためには、最低限の会計や税務の知識が必要です。

スキルとしての法律の知識と会計の知識は必須
顧客などに説明するとき「これは○○です」と断言ですことによって相手の信頼は大きくなります。こういうふ
うに断言できる根拠になるのが法律や会計の知識です。ですから、自分の業務に関連する法律と会計の知
識は必ず調べておくことが必要です。この知識が無いと「これは○○だそうです」という表現になってしまいま
す。これでは顧客は不安になってしまいます。

 (B).納期が解る
  納期も顧客にとっては大きな関心事です。「いつまでに納めてもらえますか?」という質問も必ずあります。このとき、「いついつまでにお納めできます」と具体的に答えなければいけない場面があります。納期までに仕事を収めなくては信用を損ねたり損害賠償の対象にもなりますから重要です。ですから納期の返事は慎重にしなければいけません。そのためには、商品知識の他、後述します「工程表的発想」を理解していなければ答えられません。納期の問題は顧客サイドから見れば相手がどのくらい自分の商品を理解しているかの目安にもなります。

工程表
納期を知るためには工程表的発想が有効です。工程表とは仕事の手順書を書いたもので、仕事の手順を要因と時間の関係で一覧表にしたものです。(詳細は後述します)

A活用できる人脈を持っている
 いくら自分が勉強しても仕事の全部を把握することは不可能です。自分の不足している知識を満たしてくれるのが「人脈」です。法律のことなら弁護士、税金のことなら税理士、建築のことなら建築士という具合に、それぞれの専門分野のエキスパートと日ごろから人脈を構築しておくことは重要です。

役所の活用法
人脈で全て補えればよいのですが、それが出来ない場合も当然あります。そこで、次善の策として私がお薦めしたいのが役所です。問題の内容により法律のことなら法務省、税金のことなら国税局、建築のことなら建設省と言う具合です。身近なところでは市役所・市町村役場などです。電話一本で、しかもタダで詳しく専門分野の話を聞くことができます。

B自律
  次にパーソナリテイ(人間性)です。ここでは、まず第一に「自律」をあげたいと思います。自律とは、「自分で自分の行動を規制できること」、です。言い換えれば、「責任ある言動をする」ということです。例えば、出来ないことは言わない、会社に遅刻しない、顧客との約束は必ず守るなどです。相手の信頼を得るための最低の条件です。 

武士の約束
武士道の最も重要な徳目の一つに「誠」というのがあります。字を分解すると「言」と「成」になります。これは「武士が一度言ったこと(約束)」は「必ず(命がけで)成す(実行する)」ということです。そのため、武士の約束には証文は要らないといわれているように、相手からも信頼されるのです。

C礼をわきまえる
パーソナリテイの二番目は、礼をわきまえるです。あまりにも基礎的なことで書くのも憚れますが、やはり重要です。心のあり方が表現されたものが礼です。心のあり方で私が特に重視するのは、「現状に感謝し」、「相手を思いやる心を持つ」と言うことです。そして、礼ではどんな些細なことに対しても、こころから「ありがとうございます」と言う言葉が言えるということは、いつの時代や場面でも必要です。

D正悪の区別ができる
パーソナリテイの三番目は、「やって良いことといけないことの区別ができる」です。人は目先の利益に目がくらみ悪い事をしてしまったり、中には、最初から法律の隙間を狙って悪い事をする人もいます。悪い事には些細なことにも手を染めないようにしなければいけません。だんだん深みに入り身を滅ぼす元となるからです。

E仕事の相手とは対等な関係
 仕事の相手とは、「ギブ・アンド・テイク」の関係であり、「共存共栄」の関係であり、「対等」な関係です。このことが理解できない人は結構います。よく顧客にぺこぺこ頭を下げたり、すぐに接待や贈り物に頼る人がいますが、「するほう」も、「されるほう」も「仕事のできない人」のとる典型的な行動ですし、場合によっては犯罪行為になります。
 仕事の相手とは、「ギブ・アンド・テイク」の関係であり、「共存共栄」の関係であり、「対等」な関係ですから、その仕事の成果としての利益は、相手との協力で獲得できたものであり、あくまで分け合うというのが原則です。貢献度合いが半々なら、成果の配分も折半です。少しでも利益を自分に有利にしようという気持ちがあっては、相手の信用は得られませんし、成果も期待できません。ただし、利益を獲得するのに貢献した度合いに差があるときはお互い誠意を持って増減を決めるべきです。

Fキーマンを見分けられる
 どんな仕事でも、その仕事を進める上でのキーマンがいます。キーマンとはその組織の意思決定を左右する能力を持っている人です。仕事の出来る人は、その組織のキーマンが誰であるのかいち早く察知することが出来ます。仕事の出来ない人は、肩書きや外見で相手を判断して失敗をしてしまいます。誰がキーマンか見分けるためには、日ごろから自己のスキルを向上させ、パーソナリテイを磨いておかなければ見分けることはできません。

Gファイリングが上手
 仕事が増えるに従って書類も増えていきます。キチンと整理整頓し、ファイリングしておきたいものです。そうすれば、次の仕事の備えにもなりますし、急な顧客からの問い合わせにも対応できます。ましてや重要書類を紛失でもしてはたいへんです。(最近、パソコンからの情報流失が多い)
この書類の整理のポイントは「すぐに取り出せる」です。そのためには、
(@)書類は横にしないで立てて管理する。
(A)項目ごとにフアイルする。
(B)本人の一番管理しやすい検索方法で並べる。例えば、使った日時順に手前から並べたり、あいうえお順に並べるなどです。

Gメモをキチンと取る
 人間の記憶はあまりアテにはなりません。失念したり、いい加減な記憶をしていると、相手とトラブルを起こす原因にもなります。ですから必ずキチンとメモと取る習慣をつけましょう。「メモ」を取るというのは簡単なようですが「キチン」と取るのは意外と難しいものです。そこでメモの取り方のポイントですが「もれなくダブりなく」です。基本は5W1H(放送や新聞でニュースを書くときの基本で英語の頭文字から取った六つの要素。次の表を参照)です。仕事では5W1Hを念頭に書式を定めて、その項目全てを埋めればよいようにしておけば間違いないでしょう。次に参考までに電話の取次ぎ票を例示します。(そんなこと解っているはずですが、実際にはなかなか実行されていないのです)

5W1H
項目 意  味
When いつ (どんなときに)
Where どこで (どこに、どこへ、どこから)
Who だれが (どんな人が)
What なにを (どんなことを、どんなものを)
Why なぜ (どうして、なんのために)
How どのように (どんなふうに、どうやって)

電話取次ぎ票
誰    に ○○支店長へ
い   つ 5月23日AM11:00
誰  から ABC商事の△△部長
要   件 □□工場建設資金調達の件
対   応 会議が終わったら123-4567へTELください
相手の感情 返事が遅いといらいらしているようだった。
取次ぎ者 ▽▽
                        

 メモの取り方は以上の内容でいいのですが、そのメモを○○支店長の机の上においたところ、そのメモを紛失してしまったということがありました。後でトラブルの元になります。このようなミスを防止するためには、コンピューター管理にして情報を共有するのが良いでしょう。また、相手の感情を記録することは後々の対応の参考になります。特に最近は切れる大人が増えています。キチンとしたメモは危機管理の基本です。ちなみに、切れる大人が増加してきたのは、携帯電話やIT機器の普及によりコミュニケーションが不得手になったことと、権利意識が強くなる等が原因ですが、お互いに相手に対する思いやりがすくなくなってきテいるように思います。

                        (2)フレキシブルな発想ができる人

 次は「フレキシブル(flexibil)な発想ができる」ことです。フレキシブルとは、「柔軟」。「しなやか」、という意味です。どんな頑固な人でもたいてい「自分は考えが柔軟である」と思っているようです。このフレキシブルな発想は非常に重要なことです。では、どうして重要なのかを、次に述べていきます。

@ ゼロ・ベースで考えることができる
 勘違いをする人もいると思いますが「フレキシブル」というのは「変節」するとか「朝令暮改」をするということではなく、「刷り込みの知識」や「常識」を鵜呑みにしないということで、物事の結論を最初から決め付けないで、何事も白紙の状態、即ち「ゼロ・ベース」からよく考えて結論を出すと言うことです。
 「刷り込みの知識」や「常識」などで、最初から結論を決め付けてしまい考えなければ、結局、考えられない馬鹿と同じという結果になります。例えば、コペルニクス以前の人々は「太陽が地球の周りを回っている」と当然思っていたので、そのことを疑うこともしなかったでしょう。その結果、それ以上の発想はなくなってしまうのです。会社で言えば、新規事業・新商品の開発・新市場の開拓などが出来なくなってしまうことになります。
  
A 全てのものは変化している
 仏教に「諸行無常」という教えがあります。「宇宙のもの全て(人間を含めて)は刻一刻と変化し、同じ状態はない、即ち、この世の中には絶対というものは存在しない」という考えです。国家・企業・人は勿論、草木、山川など例外はありません。この変化に対応できたものが生き残り、対応できなかったものは滅びていくことになります。よく勘違いをしている人がいますが、強いということは腕力ではなく「変化に対応できる柔軟性がある」ということです。
 例えば、過去地球上の生き物でもっとも強かったのは、恐らく恐竜でしょう。大きいものは体長30m、重さ30トンもあるのですから、現代でもっとも大きく強そうな「象」といえども戦かったら、ひとたまりもないでしょう。しかし、その恐竜もその後の地球規模の環境の変化に対応できず滅亡したのはご存知の通りです。
 人はどうしても現状に甘え、「保守的」な考えになる習性があります。そのほうが波風が立たず、居心地が良いからです。しかし、その居心地のよさに安住してしまうと、恐竜と同じ運命をたどることになります。(数年前に「ゆで蛙論」というのがありましたが同じ考え方です)。改革は生き延びるためには決して避けて通れない道なのです。 「私はこのやり方で何十年もやってきて、現に成功も収めてきた。いまさら改革の必要はない」という経営者は結構いられます。しかし、その間に環境は刻一刻変化をしています。昨日まで成功していたやり方に安住していては、いつか乗り切れない日が必ず来るのです。現にバブル崩壊以降、もっとも業績回復が遅れたのはそれまで成功体験の多かった経営者が経営する企業でした。「成功体験」は多くの場合、改革、改善の阻害要因になります。
 なかなか経営者に理解してもらえないのですが、全ての既存の商品、全ての既存の顧客、全ての既存のマーケットは、現状のままでは縮小していきます。特にこれからの企業は独自性やシエアー・アップなどがマネジメントの大きなテーマです。そのためには、これからの経営者は業績が良いうちに、現状を否定し、常に、新規顧客開拓、新分野開発、新商品開発を怠ってはいけないのです。そのために、これからの経営者は、一層の「戦略性」「先見性」「洞察力」などが必要になってくるのです。
 

   牧野昇氏講演会
(会社も当然栄枯盛衰を繰り返します。ご参考まで、何年か前、当時、三菱総研の所長だった牧野昇氏の講演会での話をご紹介します)。
 30年ぶりに同窓会(東大)に出席した同氏は、しばらくして会場のあることに気がついた。どうも宴席の真ん中で大いに盛り上がっているのは学生時代にはあまり成績が良くなかった連中である。そして目を端の方にやると、成績の良かった連中が飲んでいる。しかし、どうも気勢が上がらない。彼らは卒業当時の花形産業である炭鉱・造船・繊維・鉄道・製鉄などに就職していった連中である。だが、これらの産業のその後の衰退振りは説明を待つまでもない。気勢が上がるわけがない。一方、もっとも盛り上がっていたのは、30年前は愛知県の片田舎のさえない自動車会社に就職していった奴だった。いまこの会社はいまや売上高20兆円の世界のトップクラスの企業である。

B 戦略的な思考ができる
 日本人が最も苦手としているのが戦略的思考です。この能力は先天的なものと思っている人も多いのですが、必ずしもそうではありません。勉強して身に着けることも十分可能なのです。(第5回経営者基礎第コースで経営戦略について記述していますが、今後も関連の事柄をいろいろと書いていこうと思っていますので参考にしてください)

C 物事を大所高所から俯瞰できる
 「木」を見るのではなく「森」を見る見方ができるということです。人は物事をどうしても目先の利益や常識や感情で捉えがちです。しかし、こういう考えでは物事の本質やトレンドの方向性を見失ないます。問題に対しては自分を問題から離して、感情を交えず、客観的に、正しいかどうかをみることが必要です。(第6回経営者基礎第コースのリーダーの条件で正しいかどうかについて記述しています参考にしてください)
    

 (3)仕事の目的が解る      

@仕事の目的が解る
 何のためにその仕事をするのか。仕事の目的が解らなければ良い仕事は出来ません。同じ仕事でも目的によってまるっきり内容が変わるからです。例えば、あなたが旅行会社の営業マンで店頭で接客をしているところへ、お客さんが来て「北海道へ行きたい」という話を聞いたらどう対応しますか。直ぐに「いまこのプランが人気がありますがどうですか?」とやってしまわないでしょうか。この場合には、まず第一にそのお客さんがなぜ北海道に行こうとしているのか、旅行の目的を聞くのが先決です。気候が良いので紅葉狩りに行こうとしているかも知れないし、同窓会に出席するのかもしれません。その目的に合ったスケジュールや予算などを提案しなくてはお客さんの満足は得られません。

A仕事の相手が解る
 仕事の目的は、大抵その仕事の相手によって変わります。例えば、あるテーマで書類をまとめるとしましょう。その仕事の相手が上司なのか、顧客なのか、株主なのかによって、書類ののまとめ方は当然変わります。ですから、仕事の目的を良く知るためには、その仕事の相手が誰なのか、何の理由でその仕事をすることになったのかをキチンと抑えておく必要があります。

       (4)相手の立場に立った考えができる人


B相手の本音(ニーズ)が解る
 昔、営業の本質は、「自分が作った商品は良い商品である。だから売れないはずはない」という「生産者志向」という考えもありましたが、現在では「顧客満足志向」が主流です。顧客満足とは、「顧客のニーズを良く聴(訊)いて、観(視・診)て、良く知り、顧客のウオンツ(内心)を読み解き、、的確な提案をプレゼンし、顧客の満足を得る」という考え方です。(製造業では、「次工程はお客様」という考え方があります。これは、各製造プロセスの担当者は、自工程の作業を次の工程の担当者がやりやすいように、自工程の中で工夫するという考え方です=おもいやり)。 

「ニーズ」と「ウオンツ」の違い
(一般的に、ニーズと表現しているものは、いま少しシビアに見ていくと、「ニーズ」と「ウオンツ」に分類されます。その辺の違いを下の表で確認して於いてください)。
意      味
ウオンツ wants 潜在化している要求 本当はこういうものが欲しかったんだよ! 欲求(期待)を超える
ニーズ needs 顕在化している要求 こういうものが欲しいんだが? 欲求(期待)にこたえる
シーズ seeds 保有化している資源 こういうものがほしいはずだが? 欲求(期待)を探す

 このような、顧客満足志向」的仕事の流れの根幹をなす考え方は、「相手の立場に立った考え方ができる」です。そのためにはスキルとしては、アクテイブ・リスニングを中心としたコミュニケーション・スキルが有効ですし(第2回経営者基礎コース「コミュニケーション・スキル」参照)。パーソナリテイとしては孔子の「仁」(第6回経営者基礎コース「リーダーの条件」参照)であり、松下幸之助の「共存共栄」の考え方(第1回経営者基礎コース「松下幸之助を学ぶ」参照)であり、前述した「近江商人の三方よし」の教え的考え方です。
 このように、仕事を遂行する上で顧客満足は欠かせませんが、世の中にはもっと高いレベルを目指している会社もあります。例えばある一流といわれるホテルでは顧客の満足ではなく顧客に感動を与えることを目指しています。例えばこんな事例があります。大阪のそのホテルに常連の客が泊まりました。この客は東京の会社の役員で、その日の大阪の仕事をこなして、翌日は午後の会議のために朝一で東京に帰りました。客が出発した後ホテルの従業員が部屋に入ると客のめがねが置き忘れてありました。その従業員は上司に後のことを頼んで、忘れためがねを東京の顧客の会社まで届けたという話です。

 (5)段取りが上手な人    

@ 段取りが上手とは
 「段取り」とは、ものごとの順序(手順)・方法を決めることをいいます。一般的には「仕事の段取りをつける」というような使い方をします。仕事の良し悪しはこの段取りによるところが大きく影響します。ですから、「仕事のできる人」は段取りが上手です。
 「段取りの上手な人」とは、第一に、仕事の完成後のカタチ(絵・表・写真)をイメージでき、そのカタチを造るためは、何をどういう手順で進めたらよいのかが想定でき、実施できる人ということになります。従って、前述した「納期が解る」ことにもなります。
 例えば、料理を作る例でこの段取り力を見てみましょう。ここで重要な要因は次の通りです。
第一に、出来上がりが「イメージ」できること。
第二に、材料などの要因を「もれなくダブりなくリスト・アップすること。(そのため、「メモ」を活用)。
第三に、「手順」を決めること。
第四は、食べる「時間」に合わせること。
第五は、「コスト」を予算内で収めること。
第六は、次のため、レシピや手順書などを作成しておくこと。
 この六つの要因を間違いなくやれば予定通りの料理を作ることができるという訳です。但し、もう一つ重要なのは、それぞれの作業を誠心誠意、顧客(ここでは食べる人)のためにやる、という「」があることです。料理などは食べる人の気持ちになってやることにより、初めて顧客満足が得られることになります。例えば、食べごろというのがあります。麺類などは少し早めに作ってしまうとのびてしまい、顧客満足を得ることはできません。

A工程表
 さて、会社の仕事も料理を作るのと同じことですので段取り的発想は必要です。ただ、会社の仕事の場合は、規模、金額、責任などが大きくなりますので、多少決め細かに段取りをすることになります。そこで使われるのが「工程表」です。工程表は仕事の要因と時間の関係から作業の手順がわかるように一覧表になっています。工程表は特に建設工事等には欠かせないツールです。工程表は一般に縦軸に仕事の要因別(これを工種と言っていますが、仕事の内容や原材料などの種類別)に取り、横軸に時間(一般的には日にち)を設けて工事全体を管理します。
 参考のため下に、建設工事のときの工程表を二つ載せましたのでご覧ください。工程表-1は、建設工事全体を要約したもので横軸の単位は「月」です。工程表-2は、工程表-1よりもきめ細かに管理するためのものです。そのため、縦軸の工種も詳しく分類されていますし、横軸の単位も「日」で細かく管理出来るようになっています。そのため、仕事のそれぞれの担当者は、いつ、何を、どのくらい、準備したらよいか解るわけです。

工程表-1


工程表-2


B 仕事を前倒しでする人
 どんな仕事にも納期(期限)はあります。期限は必ず守らねばなりません。納期が迫ってからあわてて仕事を始める人がいますが、このやり方には問題があります。第一に、仕事には変更や修正はよくあることですが、時間的な余裕がなければこれをこなす事ができません。第二に、本人が病気などになった場合など納期に間にあわなくなってしまいます。これらの問題に対応するためには、平素から、準備できるものは準備しておく(危機管理的発想)ことと、早めに工程を進める、即ち、仕事の前倒しをしておくと良いでしょう。

2.仕事が出来ない人 

 参考までに、「仕事が出来ない人」に共通の特徴について若干ふれてみます。前述の「「仕事のできる人」の条件がない人といってしまえばそれまでなのですが、ここでは若干見方を変えてそのコメント力に注目して「仕事が出来ない人」はどんなコメントをするのかと言うことを、私の経験から拾い出して見ました。   

 (1)できない人のコメント 

 一般に、「仕事ができない人」のコメントは、質問された場合の答えが抽象的で具体性がないという特徴があります。(仕事のできる人のコメントは、「この仕事はいついつまでに完成させます」という様に具体性があります)。
 次に今まで私がたくさん聞いた「仕事ができない人」の代表的なコメントをいくつかご紹介します。

@「わかりません
 これなどはいいほうです。なぜなら解らないことが解っていると思われるからです。わからない点を見つけ出し、解決できれば突破口も見えてくる可能性があります。もっとも、解らないところが解らないという重症の人もいますが、この場合は基本の基本から教育しなくてはならないので大変です。

A「頑張ります
 見通しもないのに、ただ精神論で言っているだけで、抽象的で捕らえどころがありません。このタイプの人は確かに仕事を自分なりに一所懸命やっている人が多いのですが、やり方や要領が悪く成果が上がってないことが多いので、仕事の目的、やり方を理解させることが必要です。

B「何かいい話はありませんか
 仕事の出来ない営業マンのコメントとしては、この言葉が一番多く聞かれました。100%他人に依存しようという態度で論外です。お互いに協力して業績を上げるという発想が欠如していますので、パートナーには相手にされないでしょう。

C「忙しい
 忙の字は心を亡くすと書きます。「仕事ができない人」のコメントで一番多いのがこれです。仕事のやり方がわからないので成果が挙がらない人に多いコメントです。

D「そんなこと、○○がないんだから出来る訳ないでしょう
 ○○には「人」「物」「金」など出来ない理由が入ります。このコメントの真意は「責任は取りたくない」です。また「大学出はできない理由ばかり考えている」といった松下幸之助の言葉がありますように、なまじ、勉強したがゆえに、できない理由が先に想いついてしまうケースもあります。こういう考えは、企業が発展・存続するためには欠かせない新規の事業、商品開発、顧客開拓などの阻害要因になります。出来ない要因を如何にしたら克服できるかというポジテブな考えに変えなければ新しい仕事は前に進みません。

E会議が好き
 会議で業績を上げた事例を未だ聴いたことはありませんが会議が好きな人はたくさんいます。「仕事ができない人」に共通の特徴です。会議の好きな原因は大きく分けて次の2種類です。一つは、自分の仕事に自信がない人で、「他人の意見や情報を聞き自分の情報不足を補いたい」場合です。もう一つは、仕事は出来ないが、自己顕示欲が強い人や自信過剰な人が、「自分の地位を誇示したり、自己主張の場として会議を利用する場合です。この場合の会議の特徴は、資料がやたらと多い、時間が長い、他の人はイエスマンになり、意見は出ず、場はしらけ・・・こうなると会社は末期的状況です。(「会議が好き」は、後述の会社を倒産させる経営者の共通事項にも出てきます)。(そもそも8人以上の会議は会議ではない)(会議については、第6回経営者基礎コース「リーダーの条件・星野の会議」参照)。

成功している会社や業績の良い会社では会議の効率化を図っています
内    容
回数を少なくする
伝達事項は別なツールで
禁煙にする
立ったままする
1時間以内に終わらせる
資料はA4サイズ1枚以内とする

    

3.参    考

 以上、仕事のできる人、出来ない人のテーマについて書いてきましたが、ここで参考のために、マズローの「成功する人に共通の特徴」と、八起会野口誠一氏の「会社を倒産させる社長に共通の特徴」を載せます。

               (1)マズローの「成功する人に共通の特徴」

 「仕事ができる人」と「成功する人」は必ずしも一致する概念ではありませんが、共通点はたくさんあります。そこで、ここでは参考のためにアメリカの有名な心理学者であるマズローの「成功する人に共通の特徴」を載せました。マズローは優れたパーソナリテイを集めて定義し、その定義に合いそうな人物のデータから特徴を抽出し、定義を修正し直すという作業を繰り返しました。その結果を、次のような「成功する人に共通の特徴」のキー・ワードに集約したものです。

@ 現実を的確に捉え、それを感受できる。(厳しい現状でも不平不満を言って嘆かない)

A 自分、他人、自然をあるがままに受け入れることが出来る。
(物事に執着しない)

B 考えや行動が自然で自由である(世間体を気にしない)おおらかである。

C 物事に対して、問題中心的である。
(自己中心的でない)

D ユーモアのセンスがある。

E 創造的である。

F 無理に文化的にならない。

G 人類の幸福に関心。
(感謝と笑顔がある)

H 人生を客観的見地から見ることが出来る。
(人生の諸経験について深い理解をもつ)

I 少人数の人と深い満足的人間関係を持つ。
(多くの人でなくともよい)

J 民主的な価値観。
(全ての人の平等な価値や権利を認めることが出来る)

K 自発的に行動する。
(人に言われてやるのではなく)ポジテイブ、前向き

L 欠乏や不運に対して超然としている。
(欠乏や不運を嘆いたり、怨んだりしない)

M 欲望と理性が調和できる。
(対立関係を解決)

N 価値観がしっかりしている。

O 手段と目的の区別が出来る。

P人生の基本的に必要なことを、繰り返し、新鮮に、無邪気に、そして、畏敬や喜びを持って味わうことが出来る。
 (例えば食事など)

(2)八起会野口誠一氏の
「会社を倒産させる社長に共通の特徴」

 前述しましたように、「仕事が出来る人」の最も重要なフアクターの一つが「フレキシブルな発想が出来る」です。この対極にあるのは「人の言うことを聞かない」頭が固いと言う人です。一般的には「頑固」と言うことになります。この頑固の事例として、野口誠一氏の八起会の活動をご紹介します。
 JR上野駅の広小路口改札を出て、浅草通りを浅草方面へ歩いていくと、右手に下谷神社の大きな赤い鳥居が見えてきます。そのすぐ近くのビルの一室に同氏氏が代表をしている「八起会」の事務所があります。八起会は、自分も会社を倒産させて辛酸をなめた同氏が20年ほど前に、倒産した企業の経営者を救済する目的でち上げた、所謂、倒産した企業経営者の「駆け込み寺」的なボランテイア活動です。現在までに会社を倒産させた5000人以上の経営者の相談にのっています。その同氏が見た「会社を倒産させる経営者に共通の特徴」があるといいます。それは、「頑固で一人よがりである。」ということです。
 この話を何人かの経営者に話したところ、ほとんどが「頑固なくらいでなければ、社長は務まらない」という答えでした。確かに多くの従業員をかかえて仕事を遂行していくにはトップの言動がぶれるようでは部下もついてこないでしょう。
 しかし、人は頑固になると他人の話を聞かなくなります。自分と異なる意見や優れている人を遠ざけます。そのため会社から人材がどんどん減っていきます。(社長よりも優秀な社員はいないといわれる所以です)。そして社長の周りはゴマすりのイエスマンばかりとなります。そうすると一般社員は11型社員(無気力・無関心社員)になります。イエス・マンは要領が良いため表向き社長に賛成するが陰では悪口を言います。そのため会社の雰囲気が悪くなります。また、ゴマすり社員は独自の考えや能力がなく、いざというとき役に立ちません。そうして社長には真実の情報が入らなくなり、社長は誤った経営判断をして会社が倒産するというシナリオになってしまうということです。いざ、倒産ということになれば、これらのゴマすり社員やイエスマン社員は我先に逃げ出し、一人になった社長は、途方にくれ八起会を訪れるということになるわけです。
 このような社長達を同氏は支援するわけですが、相談者の中には立ち直っていく人と、立ち直れず最悪、自殺まで行ってしまう人に分かれます(日本の自殺者数はここ7年ほどは毎年3万人を上回り、そのうちの何割かは経営者です)。
 同氏は、相談者が自殺するか、しないかが解るそうです。それは自殺する社長には共通の特徴があるからです。それは「相談者が一人で相談に来る人」と同氏は断言します。「夫婦で来る人は夫婦の仲がうまくいっているので奥さんが支えてくれるので大丈夫」と同氏は続けます。一人で来る人は奥さんにまで見放されるほど頑固な人と言うことです。(夫婦仲について、あの松下幸之助も晩年「夫婦仲の良い店は倒産することはなかった。成功しているところはみな夫婦仲が良くして居られる。私も新しい取引を始めるときは、その会社の業績よりも、経営者の夫婦仲を見ますものね」と話しています)。

「会社を倒産させる経営者に共通の特徴」は一般的には次のようなものが言われています
@ 自信過剰である
A 成功体験から脱却できない
B 自分の考えに溺れる為、勉強不足で基本が解っていない
C 思いつきが多い
D 失敗を認めない・失敗を他人のせいにする・反省がない
E 社員教育をしない(しても誤った教育をする)
F 叱ったり(目下の者に対して声を荒げて欠点を咎める)、怒鳴ったり(声高に叱る)するがそのフォローをしない(⇔元中日の星野監督は叱ったり・怒鳴ったりしたらその何倍もフォローすると言われている)
G 組織を無視した言動をする
H 会議が好き

まとめ

 1990年のバブル崩壊、デフレ、グローバル化などが次々と日本経済を襲いました。そのため、大企業は再構築の名の下に、中高年を中心に大リストラを敢行した。それまで大企業の、取締役、部長、課長などとして第一線で活躍していた管理職の人たちが大量に解雇されました。このとき、多くの中小企業が人材確保の好機とみて採用に踏みきりました。しかし、採用はしたもののそのほとんどは1年程度の短期間で退職しています。理由は簡単です。仕事が出来ないのです。
 例えば、数年前NHKが特番でこの問題を取り上げ、二つの実例を紹介していました。最初は、仕事が出来る人の事例です。面接試験を終えた中小企業の人事担当者にりポーターが「今の人はよさそうですが採用でしょうね?」と聞いたところ、人事担当者は「お断りします」との答え。そこで、リポーターが「何故ですか?」と聞いたところ、人事担当者の答えが面白かったのです、「うちの社長より立派そうだからです」。二つ目は、仕事が出来ない人の実例です。やはり、面接試験を終えた人事担当者にりポーターが「今の人は採用ですか?」と聴いたところ、人事担当者は「お断りします」。そこで、リポーターが「どうしてですかか?」と聞くと、人事担当者曰く、「面接で『何が出来ますか?』と聞いたところ、受験者が『部長なら出来ます』と答えたから」と言うことでした。笑い話や、つくり話ではありません。実は、私もこの話と似た話をいくつか知っています。何故、こんなことになってしまうのかと言えば、それは、いままで長々と書いていた「仕事の普遍的な本質」を理解しないできたからです。
 今回は、信用、フレキシブルな発想、相手の立場になって考える、段取り力などの、「仕事が出来る人に共通の特徴」を中心に、「仕事の普遍的な本質」について私のビジネスマンとしての経験から書きあげましたが、一人でも多くの皆さんの参考になり能力アップに繋がれば幸いです。