経営者基礎コース第3回

新・会社法の要点



はじめに

 経営者基礎コース第2回のテーマを「新・会社法の要点」としました。これは、ご存知のように、「新・会社法」が、平成17年(2005年)6月29日の第162回国会で成立、7月26日に公布(国会で成立した法律を国民に知らせること)されました。施行(法律の効力が現実に発生すること)は公布日から1年半以内になります。(今のところ、平成18年5月ごろが有力視されています)。今回の改正は数十年振りの抜本改正といわれています。経営実務に携わっている経営者や管理者の方の中には、速やかに対応しなくてはいけない問題もたくさん含まれています。そこで、急遽第3回目のテーマを「新・会社法の要点」としたわけです。初めて会社法を読まれる方々にも解りやすくするため、要所要所に補足説明を入れましたのでご参考にして下さい。但し、改正点が膨大なため10の重要な改正点に絞りこんだ記述となっています。

T.「新・会社法」成立の背景と改正の要点

                  1.形式の現代化(形式を現状に合わせる)

                     (1)「新・会社法」に一本化されました

 今まで我々が「会社法」(以下「現行法」という)と言っていたのは、商法第二編会社(株式会社、合資会社、合名会社について規定)、有限会社法、商法特例法(株式会社の規模別に特別の規定を定めている)の三つの法律を総称して言っていたわけで、会社法という纏まった法典ではありませんでした。今回の改正で、今までのこの三つの法律が廃止されて「新・会社法」に一本化されました。(下図参照)(ここで「新・会社法」と言っているのは、従来の会社法と区別するために便宜上「新」をつけただけであって、施行後は単に「会社法」となります)

表ー1              ※※※「新・会社法」に一本化されました※※※


※従来の商法第二編会社、有限会社法、商法特例法は廃止。

                    (2)条文がひらがなで口語体になりました


現行法は、商法が明治32年、有限会社法が昭和13年、商法特例法が昭和49年制定と古い法律のため、文語体でカタカナのため、読みにくく、理解しにくいという問題がありました。新・会社法では「口語体」で「ひらがな」になり、利用者が理解し易くなりました。

                    (3)用語の整理がされました


現行法は3つの法律に別れ、改正を繰り返しおこなった結果、用語の定義や解釈など問題がありました。新・会社法では、用語の定義や解釈などの整備が行われました。


                 2.内容の現代化(内容を現状に合わせる)

                    (1)起業がし易くなりました

 現在の日本経済は長引く不況からなかなか脱却できないでいます。現に、中小企業庁の統計によれば、バブル崩壊後、廃業率が創業率を上まっています。このような状況を打破するには、新しい活力のある会社が起業し易い環境にする必要があります。そのため、新・会社法では、現行法の最低資本金制度を廃止し、1円でも株式会社ができるようにしたり、類似商号の調査を廃止したりするなど会社設立の手間を簡素化したりして、起業が容易にできるようになりました。

                   (2)企業の国際化に対応する

昨今、「企業の国際化」が急速に進んでいます。日本の企業も否応なしに、外国の企業との競争にさらされます。今後日本の企業は積極的に組織再編をしていかないと、世界の大企業に飲み込まれてしまうリスクがあります。このような問題に対する法整備も進めなければいけません。そこで、新・会社法では、M&Aなど組織再編がもっと柔軟に出来るようにする等の改正がされました。

                   (3)社会経済情勢への変化に対応する諸制度の見直しなど

 多発する企業の不祥事や、決算書類の信頼性の低下や、コーポレートガバナンス(企業統治)など種々の問題が有ります。新・会社法では、会計参与制度を新たに設けたり、会社の実態にあった柔軟で多様な機関設計を可能にしています。

                   (4)会社の種類が増えた

  有限会社は株式会社に一本化すると共に、持分会社に有限責任の新しい形の合同会社が創設されました。また有限責任の民法の組合で構成員課税が認められる制度として有限責任事業組合が新設されそのニーズに応えました。起業される方の多様なニーズに対応する選択肢が広がりました。

U.改正点のポイント

                  1. 有限会社は廃止されます


―2                 ※※※有限会社について※※※


 現在、日本には約250万社の会社がありますが、有限会社は140万社以上です。しかも、その99%以上は資本金1億円未満の小規模な企業です。これは、簡単に設立でき、運営も簡単などの有限会社の特徴が中小企業を中心に受け容れられてきたものと思われます。
 しかし、今回の会社法改正の大きな目玉の一つが、有限会社を出資者の有限責任など似通った制度である株式会社に一本化するというものでした。そのため、新・会社法施行後は、有限会社制度は「廃止」され、株式会社として存在することになります。そして、既存の有限会社(今後,新・会社法の施行までに作られる有限会社を含む)は全て「特例有限会社」という扱いになります。そして、特例有限会社は「経過措置」が設けられ、「有限会社」という商号の使用や、現行法で有限会社に認められている制度については維持されることになりました。(会社法の施行に伴う関係法律の整備などに関する法律3条1項=整備法)実際には今までと同じように有限会社として営業活動ができるということになります。
 一方、新・会社法では、株式会社の規制を大幅に緩和しています。特に、株式譲渡制限を設ける株式会社には、従来の有限会社の特徴を大幅に採用し、有限会社の受け皿的な役割を持たせると同時に、新規創業がし易くしています。
 当面、既存の有限会社は、有限会社のままで行くのか、株式会社に移行するのか、メリット、デメリットを比較して選択することになります。今回の改正で、今後、有限会社は確実に減少して行くでしょうが、無くなる訳ではありません。

                     (1)有限会社が新たにできなくなります

 新・会社法の施行後は、有限会社を新規に設立することはできなくなります。(前述の通り、新・会社法では、有限会社が廃止されてしまうからです)

                     (2)既存の有限会社はこうなります

 表―2記述のように、既存の有限会社は、新・会社法施行後は、新・会社法の規定による「特
例有限会社」という扱いになります。但し、「経過措置」により、引き続き今まで通り有限会社として営業活動ができることになります。
 一方、組織変更手続きをして株式会社に変更することも選択できます。今回の改正は、有限会社を株式会社に一本化することも大きな目的の一つです。そのため既存の有限会社が株式会社に変更しやすいように、株式会社のうち株式譲渡制限会社には、従来の有限会社と同じような機関設計や特徴が設けられました。次に従来の有限会社と新・会社法の株式会社で株式譲渡制限会社の特徴を比較してみました。

表―3              ※※※有限会社と株式譲渡制限会社の比較※※※       

従来の有限会社 新・会社法の株式会社で株式譲渡制限会社
取締役 1人から 1人から
取締役の任期 ない 10年まで延長可
取締役会の設置 任意 任意
監査役を設置 任意、任期もない 任意、任期は10年まで延長可
決算広告 義務なし 義務あり(但し、ホームページ可)
資本金 300万円以上 1円以上
計算書類の備置義務 なし あり

 このほかにも、株式会社に変更するメリットとして信用力のアップを挙げる人が多い。例えば、従業員採用が有利になる、金融機関やベンチャー・キャピタルなどの融資が受けやすくなる、エンジェル税制の適用が可能。株式公開が展望できる、取引先に対して信用力がアップするなどです。
 新・会社法の施行後、既存の有限会社が、株式会社への変更を希望する場合の手続きは、今までの有限会社の解散登記をし、次に株式会社の設立登記をすることになります。
また、有限会社から株式会社に組織変更した場合の税務上の取扱いは、実態が連続しているものとして扱われ、新しい会社に通産で課税されます。
 一方、株式会社に変更した場合の資本金ですが、資本金はそのままでOKです。(新・会社法では株式会社の最低資本金制度がなくなり、1円でも設立できるからです。(詳細は後述))

                   2.「合同会社」(LLC)が新設されました

 アメリカでは、専門知識やノウハウを持った出資者が、出資額を責任限度として集まり、経営も自分で行い、定款自治で柔軟な会社運営をするLLC(limited liability company=有限責任の会社)という営利法人が認められています。しかし、日本ではこれに該当する制度がありませんでした。そこで、新・会社法でこのようなニーズに対応するためを新たに合同会社が認められました。アメリカで発達した制度なので日本版LLCなどとも言われています。具体的には、研究開発事業、産学連携事業などに適しています。法人も社員になれますので、企業同士の共同事業にも適しています。
 合同会社の特徴は次の通りです。
@社員によって構成される人的会社です(社員が誰かにより信用が判断される会社)。
A社員は経営に参加しながら、会社の債務については出資の額を限度とする有限責任です。
B内部組織では定款自治です。
C株式会社と同じく、出資は金銭その他の財産に限られます(信用出資や労務出資は認められず)
D損益配分は全員一致の合意で定款に定めれば損益分配も自由に決められます(株式会社は出資割合に応じて分配するのが原則)

【有限責任事業組合(LLP)が新設されました】

 新設された合同会社(LLC)には構成員課税が認められていませんでした。そのため今回の会社法改正とは別に、構成員課税が認められる制度として、経済産業省は、民法組合の特例として有限責任事業組合(LLP=limited liability partnership)を新設しました。有限責任事業組合は、専門的な知識やノウハウを持つ個人や企業が集まり共同事業をするのに適した形態です。有限責任事業組合の主な特徴は次の表―4の通りです。


表―4          ※※※有限責任事業組合の主な特徴※※※                          

1 税金は出資者一人一人に対してかかる「構成員課税」です。その代わり法人税はかかりません。
2 出資者(組合員)は、出資金額のみ責任を負う「有限責任」です。
3 取締役会、監査役、社員総会などの機関設定の義務付けはなく、内部自治が原則です
4 出資者は自ら経営に参加する。重要な意思決定は全員一致で決める。
5 利益分配は自由に決められます。


表―5        ※※※新・会社法施行後の会社の種類は次のようになります※※※           

従来の有限会社 株式会社(新・会社法による) 持分会社 有限責任事業組合(LLP) 民法組合
合資会社 合名会社  合同会社(LLC)
出資者の責任 有限責任 有限責任 有限責任と
無限責任
無限責任 有限責任 有限責任 無限責任
物的会社か人的会社か 物的会社 人的会社 組合
内部の規律 強行規定 強行規定 定款自治 内部自治
出資の目的 金銭その他の財産 金銭その他の財産 金銭その他の財産ほか信用・労務の出資を認める 金銭その他の財産
役員 機関設計いろいろ 無限責任社員が業務執行を行う 社員が業務執行を行う 出資者は自ら経営
課税 法人課税 法人課税 構成員課税
摘要 廃止 改正 新設 新設

                  3. 資本金1円で株式会社が作れます

 現行法では、最低資本金制度により株式会社は1,000万円の資本金が必要です。新・会社法では、株式会社を作る際の資本金について「下限額の制限を設けない」ことになりました。言い換えれば「1円でも良い」ということになります。このことによって「お金はないが志はある」と言う人や「技術はあるがお金がない」という人も株式会社をつくり易くなります。


表―6        ※※※新事業創出促進法による一円会社はどうなるのか※※※

 ここで、注意することは、現在でも「新事業創出促進法」という特例措置によりにより、一定の条件を満たせば1円で株式会社が作れました。しかし、この特例措置で作られた株式会社は、設立後5年以内に資本金を1000万円以上に増やさなければなりません。それができない場合は、組織変更するか、会社を解散しなければなりません。
 新・会社法では最低の資本金と言う規制そのものがなくなるので、5年以降も1円のままで良いのです。それでは新事業創出促進法によりつくられた1円会社はどうなるのでしょうか。このような会社は設立時に作成した会社の定款に「設立後5年以内に資本金を1000万円以上に増やせない場合は、組織変更するか、会社を解散すること」と定めて、商業登記をすることになっています。このような新事業創出促進法により設立した株式会社が、資本金を1,000万円まで増やせないで会社を存続させるためには、新・会社法が施行されてから、株主総会でこの解散事由を定款から削除すると言う決議をし、その登記をすれば良いことになります。

                   4. 会計参与制度が新設されました

 今回改正の重要なポイントの一つが「会計参与」の新設です。これは、予(かね)てより問題視されていた中小企業の会計処理や決算書の信用度を向上させることが目的です。新・会社法は、すべての株式会社は、定款で会計参与という新たな機関設置を定める事ができるとしました。(会計参与を設置するかどうかは任意です)次に会計参与の主な内容を表―7に纏めてみました。


表―7                     ※※※会計参与※※※                                                   

資格 公認会計士(監査法人を含む)、または税理士(税理士法人を含む)だけです。
選任方法 株主総会で選任。任期、報酬は取締役と同様の規律に従います。
兼業禁止 当該会社(子会社を含む)の取締役、監査役、会計監査人または支配人その他の使用人を兼ねることはできません。
仕事 @取締役と共同して、計算書類及びその付属明細書を作成します。
A取締役と意見が一致しない場合は辞任するか、株主総会で意見を述べることが想定されます。
B株主総会で、計算書類に関し株主が求めた事項について説明しなければなりません(説明責任)
C計算書類を5年間保存し、株主や債権者の閲覧・謄写の請求に答えなければなりません。
責任 @会社または第三者に対する責任は社外取締役と同様の規律が摘要されます。
Aその職務遂行上悪意または重大な過失があり、第三者に生じた損害は賠償しなければなりません。
B会社に対しては、そのことにより生じた損害を賠償する責任を負います。(任務懈怠責任)
登記 会計参与を設置した場合、会計参与の氏名または名称は登記事項となります。

                   5. 会社設立手続きが簡単に

                     (1)「保管証明」が不要に

 現行法では、会社を設立するときに金融機関から払込金の「保管証明」を受ける必要がありました。新・会社法では、金融機関の預金口座に残高があれば、簡単な手続きで取れる「残高証明」でよくなりました。

                 (2)事後設立が簡単に

 新・会社法では会社ができてから2年以内に、会社の営業に使う財産を資本金の5%以上の金額で買う場合は、株主総会の特別決議が必要です。この場合検査役の調査は受ける必要がなくなります。また、買い受ける財産が、純資産の20%以下であれば、株主総会の特別決議は不要になります。

                    (3)類似商号規制と目的相談が廃止に

 新・会社法では、現行法での類似商号規制が廃止になります。これからはどんな会社名でも可能です。但し、不正競争の目的による商号(会社名)は「不正競争防止法」により登記の有無に関係なく禁止されました。
また、新・会社法では類似商号規制廃止と共に、目的相談(事業目的を定款に記載し公証役場で認証を受ける)も廃止されました。

                 6. 機関設計が多様に

 新・会社法では、会社の機関設計は株式譲渡制限会社か、株式譲渡制限をしない会社かの区分と、大会社か、中小会社かの区分で分類していますので、やや複雑になりました。特に、株式譲渡制限会社は、有限会社の規定が導入され、柔軟な機関設計が可能になりました。


表―8                        ※※※ 機関とは ※※※
                           

 株主総会、取締役、取締役会、監査役、監査役会、会計参与、会計監査人、委員会(指名委員会、監査委員会、報酬委員会)執行役を会社の機関といいます。会社を運営したり、監査したりする人や組織のことです。自分の会社にはどういう機関を設置すれば良いか、各社それぞれ決定することを「機関設計」と言います


表―9                  ※※※ 株式譲渡制限会社とは ※※※
              

 株式の譲渡(売買や贈与)は、自由に譲渡できるのが本来の姿ですが、そうすると、ある株主が会社の知らないうちに、会社にとってはよからぬ人(例えば、商売敵、乗っ取り屋など)に株式を譲渡してしまうと、会社は困ってしまいます。そこで会社は、「株式を譲渡する場合は必ず会社の承認を得ること」と言う条件をつければ、株主が勝手に株式を譲渡することを防ぐことができます。このように株式の譲渡を制限している会社を株式譲渡制限会社といいます。
 「株式譲渡制限会社」にするには、まず、定款に「当会社の株式を譲渡するには、取締役会の承認を得なければならない」という規定を設けます。そして、そのことを登記をすれば良いのです。数の上からは日本の株式会社は、ほとんどが株式譲渡制限会社になります。今回の改正で、この株式譲渡制限会社には有限会社のいろいろな制度が取り入れられています。そのため、有限会社が株式会社へ変更する場合、ほとんどこの株式譲渡制限会社になると思われます。
 このような株式譲渡制限の規定がなく、株式が自由に譲渡できる会社を非株式譲渡制限会社と言って株式譲渡制限会社と区別しています。また、株式のうち一部だけ株式譲渡制限がある場合も、非株式譲渡制限会社となります。
 一方、「上場企業」の場合は、このような株式の譲渡制限があると、株式本来の流通の阻害となりますので、譲渡制限の規定は設けてはいけないことになっています。


表―10           ※※※新・会社法により株式会社の種類は次の4種類になります           

   ※※※※※※株式会社の種類(1)(規模による分類)※※※
資本金・負債 監査役
大会社 資本金が5億円以上、または負債が200億円以上 常勤監査役をおかないこともできる会計監査権限あり。会計・業務監査権限あり。
中小会社/大会社ではない会社 資本金が5億円未満、または負債が200億円未満。 会計監査権限あり、業務監査権限あり。
会計監査権限に限定も可。


    ※※※株式会社の種類(2)(株式譲渡制限の有無)※※※
株式譲渡制限会社 非株式譲渡制限会社
大会社 取締役会の設置義務なし。 取締役会の設置義務あり。
中小会社/大会社ではない会社 取締役会の設置義務なし。取締役会がなければ監査役の設置義務なし。 取締役会の設置義務あり。

 株式譲渡制限をしない会社の機関設計は次の通りです。
@ 取締役会+監査役(会)
A 取締役会+監査役(会)+会計参与(任意)
B 取締役会+3委員会(指名委員会、監査委員会、報酬委員会)
C 取締役会+3委員会(指名委員会、監査委員会、報酬委員会)+会計参与(任意)

 株式譲渡制限会社の機関設計は次の通りです。
 大会社で取締役会を設置しない会社
@ 取締役会+監査役(会)
A 取締役会+監査役(会)+会計参与(任意)
 中小会社の場合
@ 取締役(一人取締役が可能)
A 取締役会+監査役
B 取締役会+会計参与(任意)

                  7. 取締役・監査役関連の改正点

                    (1)1人取締役が株式会社でも認められます

新・会社法では、株式譲渡制限会社で取締役会を設置しないという機関設計をした会社の取締役は、1人でいいということになりました。従来の有限会社のような単純な機関設計が、株式会社でも認められるようになったわけです。

                    (2)取締役の任期を10年まで伸張できる

現行法では取締役の任期は2年でした。新・会社法では、株式譲渡制限会社の場合は、定款に定めれば、最長10年まで伸長できるようになりました。株式譲渡制限がない会社は、従来通り2年です。

                    (3)取締役の資格を緩和

新・会社法では、株式譲渡制限会社の場合、取締役を株主に限ってもよいことになりました。従来の有限会社の規定を取り入れたものです。しかし、株式譲渡制限会社以外の会社は取締役を株主に限定できません。また、新・会社法では破産者でも取締役になれるようになります。破産者に再挑戦の機会を与えたものです。

                    (4)取締役を解任しやすくなる

取締役の解任について、現行法では株主総会の特別決議でした。新・会社法では、株主総会の普通決議になり、解任がしやすくなり、株主が取締役をコントロールしやすくなりました。

                    (5)取締役会の書面決議が可能になる

 現行法では、取締役会は3ヶ月に一回開催する必要がありました。新・会社法では、取締役が「取締役会の決議の目的である事項について提案をしたい場合は、その提案に付き、取締役の全員が書面決議(いわゆる持ち回り決議)または電磁的方法(いわゆる電子メール)により同意の意思表示をし、かつ、監査役がいる場合は監査役が特に意義を述べることがないときは、取締役会で決議があったものと看做す旨を、定款で定めることができること(370条)となりました。海外在住の取締役の増加などに対応し、迅速な会社経営を目指した改正の一つです。      

                    (6)取締役の責任が変わる

 現行法では、取締役の責任について委員会設置会社でない限り、法令・定款違反があった場合を除いて、すべて(違法配当、利益供与、役員貸付、利益相反取引)、無過失責任となっていました。新・会社法では、すべての違反について原則過失責任になりました。大幅な責任緩和です。

                    (7)株主代表訴訟制度が変わる

 株主代表訴訟が可能になってから、制度の乱用の問題が指摘されていました。新・会社法では、代表訴訟を起こせる株主は原則6ヶ月前から引き続き株式を持っている株主に限り、株主が自己もしくは第三者の不正な利益を図ること、及び会社に損害を加える目的の場合は、株主代表訴訟は起こせないように一定の制限を加えました。
また、株主代表訴訟は会社に提訴をしても会社が提訴をしないときに起こすものですが、その場合、会社は不提訴の理由を書面で通知しなければならなくなりました。           

                    (8)監査役関連の改正事項

現行法では監査役は業務監査と会計監査の権限を有し任期は4年です。新・会社法では株式譲渡制限をしない会社は従来と同じだが、株式譲渡制限会社については有限会社法の規定を反映させ、@定款に定めれば権限を会計監査だけに限定できる。A任期は最長10年まで伸長できる。B小会社は監査役を置かなくともよいなどと改正されました。

                   8. 会計関連が変わる

                    (1)会社の計算方法が変わる

 現行法では配当は、年1回(期末)しか行えません。(中間決算をおこなっている会社では期末と中間の年2回行える)しかし、新・会社法では、いつでも株主総会の決議により配当が行えるようになります。また、期中に簡易決算手続きを行い、そのときまでの利益を配当金に合算することもできるようになりました。但し、純資産額が300万円未満の場合には、配当を行うことはできません。配当金を多く払いすぎてしまった取締役は、支払った配当金を会社に返済する責任を負います。但し自分に過失がないことを証明すれば、その責任から逃れられます。また、配当金に対する税金も変わります。先ず、上場会社の場合は配当金支払い時に10%の税金(所得税7%、住民税3%)が天引き(源泉徴収)されます。これに対して、未上場企業の場合には、配当支払い時に20%の所得税が源泉徴収されます。この場合の1銘柄の1年間に受ける配当金が10万円超の場合、確定申告が必要になります。

                     (2)株主持分変動計算書の作成と利益処分案の廃止

 新・会社法においては、いつでも株主総会の決議で剰余金の配当や資本の部の金額を変動させることができるため、株主持分の期中の変動を表す「株主持分計算書」が必要になります。このため貸借対照表、損益計算書、事業報告書(従来の営業報告書)に加えて株主持分変動計算書を作成しなければならなくなりました。一方、新・会社法においては、従来の利益処分案は、他の手続きに吸収されるため無くなりました。

                     (3)役員賞与は総会決議事項に

 新・会社法では、役員賞与は株主総会の決議により定めることになります。そのため、従来、定款で、剰余金の配当を取締役に委譲した場合のような、お手盛りの問題を解消することが期待されます。

                  (4)決算広告

 新・会社法では、現行法と同じく、株式会社はその規模及び選択した機関設計にかかわらず、決算広告が必要です。但し、有価証券報告書を提出している株式会社であって、EDINET(エディネット)等において当該報告書が公開されている株式会社については、決算広告は不要です。

                    (5)中小企業の会計に関する統一見解が出された

 予てより問題の多かった中小企業の会計処理について、今回の改正で会計参与が導入されたことにより、会計参与が計算書類を作成するに当たって一定の規範が必要であることから、日本公認会計士協会他3団体が、従来の中小企業庁他2団体の取扱いを統合して、「中小企業の会計に関する指針」を平成17年8月に公表した。主な内容は、有価証券の時価評価、固定資産の会計、引当金の処理、税効果会計などである(詳細は割愛)

                   9. M&Aはどうなる

 ホリエモン騒動以来、すっかり有名になった「M&A」とはMerger and Acquisitionの略で一般的には「会社の合併と買収」と訳されています。M&Aと言うとマイナスなイメージが強いのですが、買う側にとっては規模の拡大、経営の多角化・相乗効果、時間を買うなど、売る側には財政基盤に安定、本業への集中など、メリットも多いのです。そのため今回の改正も産業界の要請によりM&Aの規制が緩和されてきました。「M&A」には表―9のようにいろいろな方法があります。現行法では、@株式譲渡、A合併、B営業譲渡、C株式交換、D株式移転が認められています。(C,Dは1999年に追加)
 新・会社法では、更に規制が緩和され、Eの三角合併が認められました。(しかし、この三角合併は巨大な外国資本が日本の子会社を通じて日本の会社にM&Aを仕掛けてくる可能性が高いなどの理由で施行が1年先送りになっています)


表―11                  ※※※M&Aの種類※※※

@ 株式譲渡・子会社化 A社がB社に「B社株を売ってください」と言って、B社が承諾し、A社がB社株を手に入れれば、A社はB社の子会社になります
A 吸収合併 A社がB社の経営者に「合併しましょう」と言って、B社の経営者が承諾した場合は、B社はA社の子会社になります。この場合、B社の株を持っていた株主のB社株はA社株と交換されることになります。
B 営業譲渡
C 株式交換・完全子会社化 @の事例でA社はB社株を買うのではなく、A社株と交換することによってB社がA社の子会社になります。(A社はお金がなくともB社を子会社にできる)
D 株式移転・純粋持ち株会社化 A社株とB社株を共にC社株に移転することによって、A社とB社が共にC社の傘下に入り、合併と同じような効果が期待できる。この場合、A社とB社の旧株主はC社の新・株主になる(みずほホールディングスなど)
E 三角合併 外国企業X社が日本に子会社A社を設立し、そのA社が日本企業B社を吸収合併し、その対価としてX社の株を交付する。その結果、外国企業は1円も使わず日本企業を買収できる。

                  10. 株式・社債関連改正点

                    (1)株券は原則不発行

 従来、株式会社は、株主であることを証明する株券の発行が義務づけられていました。その後、平成16年10月施行の改正商法で、原則としては株券の発行が必要だが、定款の定めがあれば株券を発行しなくとも良いことになりました。
 そして、新・会社法では、原則として株券は発行しないことになりました。また、株式譲渡制限会社においては、定款に株券発行の定めがあったとしても、株主から請求がなければ株券を発行しなくともよいことになりました。

                    (2)端株と単元株は

 端株(株式の分割などでできた、1株に満たない端数の株をいいます.議決権はありません)と単元株(1議決権が認められる一定数の株式をいいます。一単元の株式に一つの議決権が認められています)について、新・会社法では端株制度を廃止し、単元株制度へ統合しました。

                    (3)すべての株主に株式買取請求権が付与された

 新・会社法では株式買取請求権(株主が自分の持っている株式を会社に買い取ってもらう権利。ケースとしては株主総会で合併に反対した株主が行使したりする)を全ての株主(議決権を持たない単元未満株主を含む)に認めました。この場合の買取価格は公正な価格によるが、話し合いが付かない場合は、裁判所に請求し決めてもらいます。現行法では株主しか請求できなかったのを新・会社法では会社からも請求できるようになりました。

                    (4)自己株式取得の規制も緩和される

 現行法では、自己株式(会社が発行した株式を発行した会社が取得すること。特に自己株式を買い取って誰にも譲渡しないで金庫に保管しているような株式は「金庫株」といわれる。いずれにしても株価操作などに使われる恐れがある)は、原則禁止で、定時株主総会の決議により取得できました。新・会社法では取得について臨時株主総会の決議に緩和されました。

                  (5)新株発行の手続きが簡略化される

 現行法では、株式譲渡制限会社の場合は、株主以外の第三者に新株を発行する場合株主総会の特別決議が必要でした。また、第三者に有利発行を行う場合も株主総会の特別決議が必要でした。新・会社法では、両方とも同時に行えるようになり合理化が計られました。

                    (6)新株予約権の規定が整えられた

 新株予約権とは、会社から予め付与されたその会社の新株を取得する権利のことです。既存の株主に対して発行する場合と、既存の株主以外の第三者に発行する場合があります。また、有償と無償の場合があります。敵対的買収の防衛策(日本放送やTBSが敵対的買収に対して検討したポイズン・ピル=poison pill)として使われることがあります。
 規制を受ける開始時期について、現行法では無償の場合は割当時から、有償の場合は、払込期日となっていました。新・会社法では有償・無償とも割当時から規制を受けることになりました。また、買収防衛のため、黄金株(拒否権付種類株式)にも譲渡制限が可能になりました。

                    (7)一部の種類株式のみの譲渡制限が認められた

 株式会社は、種類株式(利益の配当、残余財産の分配、株式の買い付け、償却、議決権の行使など内容の異なる株式など内容の異なる株式をいう)を発行できます。現行法では、この種類株式の発行限度額は発行済み株式総数の1/2を超えないという規制がありました。新・会社法では、株式譲渡制限会社の場合はこの制限が撤廃されました。但し、株式譲渡制限のない会社の場合は、従来と同じ1/2を越えることはできません。

                    (8)社債の発行が幅広くできるように

 現行法では、社債発行は株式会社にのみ認められ、有限会社には認められませんでした。新・会社法では、既にある、有限会社や取締役一人で取締役会を置かない会社(合同会社、合名会社、合資会社)でも社債を発行できるようになりました。
 また、現行法では、社債の応募額が社債総額に達しない場合、社債の発行そのものが不成立になりました。新・会社法では、打切り発行の原則(支払い期日までに実際に支払われた額で発行が成立する)を採用しています。

まとめ

 新・会社法は如何でしたでしょうか。今回の会社法改正は、数十年ぶりの抜本的な大改正です。その新・会社法について経営者の基礎知識として必要、且つ、重要と思われる10のポイントに絞って纏めてみました。未だ現行法の説明もしていませんので、要所要所に「表」を挿入し補足説明をしました。その結果、ヴォリウムが膨大になり、細部の改正点は割愛せざるを得ませんでした。ご了承ください。(会社法全般については後日取り上げる予定です)

参考文献
新会社法と新しいビジネス法務 太田達也著 商事法務
新・会社法のポイント 中経出版P 中経出版
ジュリスト.1295(新会社法の制定) 有斐閣
新会社法 山田真哉著 青春出版社
週刊ダイヤモンド7月23日号(図解新会社法) ダイヤモンド社
会社法の仕組み 浜辺陽一郎著 東洋経済新聞社