経営者基礎コース第2回
コミュニケーション・スキル
はじめに
経営者基礎コースレポート第2回のテーマは「コミュニケーション・スキル」です。「コミュニケーション・スキル」(Communication Skill)は一般的には「意思疎通の技能」と訳されています。人は一人では生きていけません。二人以上の人の集まりである社会では、よりよい人間関係は非常に大切です。そのよりよい人間関係を作り出す潤滑油になるのが、コミュニケーション・スキルです。言葉や表情などいろいろなコミュニケーション・スキルを使って、自分を理解してもらい相手を理解することは重要です。しかし最近ではこのコミュニケーション・スキルが減退していると言われています。社会、経済などの変化や、科学の発達などによるものといわれています。産業資本主義が隆盛になるに従い、都市生活者や核家族が増えるなど、従来の農耕型の濃密な人間関係が薄れつつあります。そして、最近のメールやNETなどの普及は希薄な人間関係に拍車をかけています。これらの現象は、企業の経営者にとっても看過できない重要な問題です。そこで、今回のテーマをコミュニケーション・スキルとしたわけです。
今回は、近年経営の分野でも注目されている、聴くスキルのアクティブ・リスニング(active
listening=積極的傾聴)を中心に、話すスキルのアサーティブ(Assertive=主張的な)な自己表現、そしてストローク(stroke=その人の存在や価値を認める言葉、行動、働きかけ)の、新しい技法も紹介しました。
1.企業におけるコミュニケーション・スキルの重要性
人が一定の目的のために人為的に組織化された集団である企業や会社ではコミュニケーション・スキルの重要性は尚更です。特に、経営者や管理者と言われる人の仕事量の70%はこのコミュニケーションに費やされているといわれています。ですから、組織の目標達成のためには非常に重要なスキルなのです。
経営学では経営者、管理者の3つの重要なスキルの一つにヒューマン・スキルを上げています。ヒューマン・スキルとはコミュニケーション・スキルを駆使し組織目標を達成することです。特にミドルマネジメントではコミュニケーション・スキルにより組織目標を達成する最も重要なスキルとされています。(表―1参照)
|
このコミュニケーションがうまくいかないことをコミュニケーション・エラーといいます。一般の人でもコミュニケーション・エラーが起こると人間関係が悪化したりします。これが経営者や管理者になると会社やステーク・ホルダー(株主や債権者などの利害関係者)などたくさんの人々に重大な損害を与えかねません。そして、仕事で最も大切な「信用」を失うことになります。このように、経営者や管理者が的確に仕事を遂行するためには、意志の疎通(コミュニケーション)ができる技能(スキル)をぜひ習得しておかなければなりません。
しかし、現実にはどうでしょうか。多くの会社の管理者が、部下に「ほーれんそー、ほーれんそー」(「報・連・相=報は報告の報、連は連絡の連、相は相談の相」と口をすっぱくして叫んでいます。「報・連・相」は取りも直さず職場のコミュニケーション・スキルの基本ですが、それさえもなかなか徹底は難しいのが現状です。
また、特に若年層のコミュニケーション・スキル不足を危惧する声もあります。次の表―2のようなデータがあります。このデータは各企業の経営者や人事担当者に「新卒を採用するときは何を重視して採用しますか」というアンケートの結果です。ダイヤモンド誌に2005年2月19日号に掲載されたものです。ここでは、コミュニケーション能力(コミュニケーション・スキルと殆ど同義語と解釈してよいと思います)という表現になっていますが、第3位に入っていて企業側の関心の高さが伺えます。
【表―2】 ※※※新卒を採用するときは何を重視して採用しますか※※※
|
また、質問を変えて、「ここ数年で重視するようになった採用基準は何ですか?また、重視しなくなった採用基準は何ですか?」との質問には、同じく企業の人事担当者は表−3、表−4のように答えています。
【表−3 】 ※※※ここ数年で重視するようになった採用基準※※※
|
|
表ー3、表ー4から、経営者は学校名などのウエイトを下げるとともに、コミュニケーション・スキルのウエイトを高くしていることが読み取れます。このことは、現場ではコミュニケーション・スキルの重要性を認識しているが、その能力に不満を感じているということです。
2.コミュニケーション・チャネル
次に、コミュニケーション・スキルを、チャネル(channel=方法)別に見てみます。人はどんな方法でコミュニケーションを図っているのか?その種類を整理し、図表にしたものが表―5です。(研究者によって分類の仕方が若干異なることがあります)
表ー5 ※※※コミュニケーション・チャネル※※※ |
コミュニケーション・チャネルは大きく分けて、「言語的コミュニケーション」と「非言語的コミュニケーション」に分けられます。次にそれぞれのチャネルの特徴といかに効果的にそのチャネルを使かったら良いのかについて見てみましょう。
(1)言語的コミュニケーション
言語的コミュニケーションとは、「言葉」によるコミュニケーションです。、コミュニケーションの中でも最も重要なもので、その内容は表ー6のようなものです。
表ー6 ※※※言語的コミュニケーション・チャネル※※※
|
(2)非言語コミュニケーション
『二者間の対話では言葉によって伝えられるメッセージ(コミュニケーションの内容)は全体の35%に過ぎない。残りの65%は話し振り、動作、ジェスチャー、相手との間の取り方など言葉以外の手段によって伝えられる。』(ヴァーガス1987〜)」の言葉が示すように、非言語コミュニケーションの意義は通常想定されている以上に大きいといわれます。非言語コミュニケーションには次の表ー7ようなものがあります。
表ー7 ※※※非言語ココミュニケーション・チャネル※※※
|
図ー1 ※※※リーダーの席※※※
|
3.アクティブ・リスニング(聴くスキル)
いま、聞くスキルとして、カウンセリングの分野で開発されたアクティブ・リスニングが、経営の分野でもビジネス・コミュニケーション・スキルの手法として注目され、積極的に採用されています。そこで、ここではアクティブ・リスニングについて見てみましょう。
(1)アクティブ・リスニングの意義
日本では一般には「積極的傾聴」と訳されているアクティブ・リスニング(active
listening)はもともと、アメリカの心理学者でカウンセリングの神様と言われたカール・ランサム・ロジャース(ウイスコンシン大学教授)によりカウンセリングの手法として開発されたものです。内容は、「相手の考えや気持ちを相手の立場に立って理解する聴き方で、このことにより相手が自分自身を理解し、自信ある行動が出来るよう助力する聞き方」であると言えます。(「聞く」は小鳥の鳴き声などを聞くなどと使われますが、積極的傾聴の「聴く」は話し手の話しの内側の気持ちを「聴く」の違いが有ると言われています)。
アクティブ・リスニングと言うと受動的のように聞こえますが、一貫して耳を傾けることによって、次のような考えが伝達されます。「私は人間としてのあなたに関心を持っている。あなたが感じていることは重要であると思う。あなたの考え方を尊重するし、たとえそれに賛成できなくても、それがあなたにとっては妥当だと言うことを知っている。あなたを変えたり、評価したりしようとはしない。ただあなたを本当に理解したいだけだ。私があなたの話に乗る人間であることを知ってもらいたい」
また、相手を尊敬していることを、言葉によって信じ込ませることは難しいが、アクティブ・リスニングはそれを行動を通じて示すというものです。他の行動と同様にアクティブ・リスニング行動も感染します。「己の欲することを人に施せ」と言われるように、本当にアクティブ・リスニングされ、理解されたいなら、まず自分がこれらの方法を身に付け、話し手の言うことを理解と尊敬をもって真にアクティブ・リスニングするのが良いということになるでしょう。
(2)事 例
次の表ー8の事例をA(左側)とB(右側)を比較しながら読み比べて見てください。
表ー8 ※※※ 事 例 ※※※
(嘉味田朝功著「行動科学」産能大より抜粋) |
A(左側)とB(右側)の違いお解かりになりましたか。両方とも最初は同じ会話だったのが最後には別の結論になっています。このB(右側)がアクティブ・リスニングによる会話といわれています。
(3)アクティブ・リスニングの基本技法・態度
アクティブ・リスニングを行うための基本的な技法・態度をまとめたのが次の表ー9です。
表ー9 ※※※アクティブ・リスニングを行うための基本的な技法・態度※※※
|
図ー2 ※※※アクティブ・リスニング上の聴き手の座席※※※![]() |
(4)アクティブ・リスニングで避けるべきこと
アクティブ・リスニングを行う上で、次の表ー10の項目は、その阻害要因となりますので避けなかればいけません。
表ー10 ※※※アクティブ・リスニングで避けるべきこと※※※
|
(5)アクティブ・リスニングの効果
積極的傾聴には、次のような効果が期待できます。
@話し手は、尊重されていると感じて、聴き手に対する信頼感が生まれます。
A話し手は、感情を発散できる。心理学でいうカタルシス的効果(抑圧された精神的苦悩を積極的に表出させてコンプ
レックスを解消する療法)があります。
B話し手は、本心が話しやすくなります。
B聴き手は、話し手が本当に言いたいことをつかむことができます。
4.アサーティブな自己表現(話すスキル)
話すスキルとして、今、注目されているのがアサーティブな自己表現方法です。そこで、ここでは、その概要を述べます。
(1)自己表現の3つのタイプ
自己表現方法には表ー11のように3通り方法があると言われています。
表ー11 ※※※自己表現の方法※※※
|
(2)DESC法
アサーティブな自己表現を実現させるためには、相手も乗ってこられる環境作りが必要です。そこで有効なのがDESC法と言われています。この方法は次の表ー12の項目を踏んで自己表現をする方法です。
表ー12 ※※※自己表現の方法※※※
|
(3)自分の気持ちを正確に伝える方法(LADDER)
アサーティブな自己表現を実現させるスキルとして、次の表ー13のLADDERの手順を踏むことにより、自分の気持ちや考えを正確に伝えることが出来るとされます。、
表ー13 ※※※LADDERの手順※※※
|
5.ストロークという考え方
ストローク(stroke)とは心理学で、その人の存在や価値を認める言葉、行動、働きかけを言います。ストロークにはいくつかの分け方があります。
(1)「投げるストローク」と「受けるストローク」
一つ目の分け方は、「投げるストローク」と「受けるストローク」です。例えば「こんにちは」とAさん。すると、Bさんが「こんにちは」と返しました。続いて「お出かけですか」とAさん。Bさんが「一寸そこまで」と笑顔で返しました。このケースでのAさんが投げるストローク、Bさんが受けるストロークです。人には投げるストロークが得意な人と、受けるストロークが得意な人、それに「両方とも不得意な人」がいます。・・・両方得意な人は
(2)「肯定的ストローク」と「否定的ストローク」
二つ目の分け方は、「肯定的ストローク」と「否定的ストローク」です。肯定的ストロークは、それをもらったら嬉しくなるもの。例えば、「挨拶」、「握手」、「抱きしめる」、「褒める」、「感謝の言葉」、「微笑む」などです。一方、否定的ストロークとは、それをもらうと嫌な気持ちになるものです。例えば、「殴る」、「怒鳴る」、「非難する」、「睨む」、「命令する」、「嘲笑する」などです。肯定的ストロークの効果として、相手を「成長させたり」、「意欲を引き出したり」、「心が満たされたり」します。子供の場合に、親から十分な肯定的ストロークがないと否定的ストロークでもいいからもらおうとします。例えば、次男が生まれ、かまってもらえない長男が物を壊したりして母親の注目を引こうとするような行為です。
(3)「条件付きストロークと」「無条件ストローク」
三つ目の分け方は、「条件付きストロークと」「無条件ストローク」です。条件付きストロークとは、何らかの条件を満たしたら与えられるものを言います。例えば、試験で「100点取ったから褒美を挙げる」の様なものです。この条件付きストロークばかりで育った子供は、自分に自信が持てなくなり、常に他人の評価を気にするようになり、反抗的になったりします。
一方の無条件ストロークは、相手の人格とその存在そのものに与えられるものです。例えば子供を「抱きしめる」、「あなたがいるだけで私は幸せよ」などです。
この無条件の肯定的ストロークの効果は、相手の自信に繋がり、相手の成長を促し、相手の生きる意欲を引き出します。
(4)「あったか言葉」と「ちくちく言葉」
これはある小学校の教師が、「以前の小学生はけんかをしても自然に仲直りできたが、最近の小学生は一度けんかをするとなかなか仲直りできない」という状況を何とかできないだろうかと考えたた結果作り出した方法です。
「ありがとう」「仲良くしよう」「こんにちは」「お疲れ様」など相手がうれしくなる言葉を「あったか言葉」とし、みんなで言葉に出したり、書き出したりするようにしたのです。逆に相手がいやな気持ちになる言葉を「ちくちく言葉」とし、ノートに書き出し、お互いに使わないようにしました。その結果、けんかの数も減少し、けんかをしてもあったか言葉により仲直りができるようになったというものです。 大人の世界でも参考にすべき点は多いと思います。
あとがき
今、サラリーマンの60%は心を病んでいると言われています。失職者に至ってはその割合は90%以上と言われています(そのため、厚生労働省は新規に5万人のキャリア・コンサルタントという新規の資格を創設してその対応に当たっています)。また、学校においても多くの子供たちが不登校や薬物そしてリストカッターなど心を病んでいます。そして、家庭においても家庭内暴力などが、社会問題になっています。これらの原因の一つはコミュニケーションに問題があると思われます。
そして、これらの解決にはコミュニケーション・スキルアップが欠かせません。今回は、「コミュニケーション・スキル」、とりわけその中でも最も注目されている聴くスキルの[アクティブ・リスニング]を中心に、[アサーティブな自己表現]、[ストローク]をご紹介しました。ただここで注意したいのは、これらはあくまでもスキルであることです。人間性を高めたうえでのコミュニケーション・スキルのアップになります。
企業経営においても、労務管理、顧客管理などいろいろな場面で、コミュニケーションは避けて通れない問題です。今回のレポートをきっかけにコミュニケーション・スキル・アップのきっかけにして頂ければ幸いです。
参考文献:
斉藤愛子著「ビジネスコミュニケーション・スキルズ」文真堂
嘉味田朝功著「行動科学」産能大、
榊原清則著「経営学入門」日本経済新聞社、
樺旦純著「心理トリック」王様文庫
浮世満理子著「プロカウンセラーのコミュニケーションが上手になる技術」あさ出版