社会人基礎コース

第  回

学生時代のすごし方




ー能力開発の時期ー

 人間は誰でも、「楽しく幸せで充実した人生、しかも自分らしい人生を送りたい参考1:山本有三著路傍の石より」と願っています。そのためには「一人前の社会人として生きていく能力参考2:スーパーの能力とはを身に付けること」が必要です。例えば、「自分のことは自分でする」、「自分の行動に責任が持てる」、「仕事をキチンとこなせる」、「経済的に自立できる」、「他の人に迷惑をかけないよう配慮出来る」、etc.などをクリアーできる力があるという程度の意味です。
また、一生のうちには楽しいこともあれば、苦しいこと困難なこと参考3:四苦八苦もたくさんあります。その人生の苦しみ、困難を乗り越え幸せに生きる能力を開発し、高める重要な時期が学生時代参考4:古代思想に学ぶともいえます。まさに巣立ちの準備期間ということもできます。学生(生徒)が毎日勉強をしている理由はそこにあるわけです。

 参考1:山本有三著 「路傍の石」より
たったひとりしかない自分を、
たった一度しかない人生を、
本当に生かさなかったら、
人間、生まれてきたかいがないじゃないか

( この一文は山本有三のふるさと栃木市の太平山山頂の石碑に刻まれています)

 参考2:スーパーの能力とは 
  能力についてはアメリカの学者スーパーの定義が一番分かりやすいので紹介します。彼は「能力はスキルとパーソナリテイである。」としています。ここでいうスキルとは知識・技能のことで、国語、算数、理科、社会。ETC.法律、会計の知識、自動車の運転技能、あるいは、コンピユータの専門知識などを言います。一方パーソナリテイは人間性、心、精神、性格なども含まれます。勉強をするということはこのスキルとパーソナリテイをバランスよく高めることです。ですから一番いいのは頭もよくて、性格も良い人ということになりますが、一番悪いのは頭は良いが、人間性が悪い人ということになります(自分の知識を悪用することがあるからです)。

 参考3:お釈迦様の四苦八苦の教え
お釈迦様の教えの一つに「四苦八苦」という言葉があります。人生には八つつの苦(ここでいう「苦」とは、苦しいことというより自分の思うようにならないこと)があるといっています。生・老・病・死の四つの苦に,愛別離苦(あいべつりく: 愛する者と別離すること),怨憎会苦(おんぞうえく: 怨み憎んでいる者に会うこと)求不得苦(ぐふとくく :求める物が得られないこと五蘊盛苦(ごうんじょうく: 五蘊(人間の肉体と精神)が思うがままにならないこと)の四つの苦をたして八苦です。  

 参考4:古代思想に学ぶ

 学生時代のように長い人生を幾つかに区切って考える思想は古代から世界各地にありました。そのなかから古代インド思想の四住期(しじゅうき)と、古代中国の五行説(ごぎょうせつ)を紹介します。

四住期

 先ず、四住期ですが、この思想では人生を学生期(「がくしょうき」と読みます)、家住期、(かじゅうき)林住期(りんじゅうき)、遊行期(ゆぎょうき)の4つの期間に分けて考えています。その中で、学生期とは、若いうちにいろいろな物事を学んだり、経験したりして、家住期に備える時期としています。次の家住期は、一人前の社会人として仕事に励む時期で、家族も増え責任も大きくなります。三番目の林住期は、生きるための家住期をリタイアして、静かに人生について思考する時期です。最後の遊行期は、家族や財産をすて無一物になり、遊行し、人生の終焉を迎える準備をする時期です。年齢で言えば、現代の日本では学生期は20歳位まで、家住期は20歳位から60歳位まで、林住期は60歳位から80歳位まで、遊行期は80歳位から人生を終えるまでということになります。勿論、インドと日本、古代と現代など背景の違いで大きく異なります。

五行説

 次は五行説です。この思想の特徴はそれぞれの時期を、青、赤、白、黒、そして黄と、「色」で表すということです。まず、20歳くらいまでの時期は「青」で表します。未完成だが、大いに勉強し、成長する時期で、季節なら若葉が芽吹き新緑におおわれる「春」です。ですからこの時期を青い春、すなわち「青春」といいます。20歳くらいから60歳くらいまでの時期は「赤」で表します。第一線で仕事をし、家庭を作る時期です。まさに人生の最盛期であり、季節なら真っ赤な太陽がギラギラ輝く夏です。ですからこの時期を「朱夏」(しゅか。朱は赤のこと)といいます。60歳くらいから80歳くらいまでの時期は「白」です。第一線を退き人生を回顧し、また自己を高めていく時期です。季節では収穫の「秋」です。この時期を「白秋」(はくしゅう)といいます(詩人北原白秋の「白秋」です)。80歳位以降は「黒」で表します。季節で言えば寒さの厳しい冬です。この時期を「玄冬」(げんとう)といいます。(玄冬の玄は黒のこと)そして、それぞれの期間の端境期には「黄」が入ります。例えば、青から赤に移行する20歳前後は、子供から大人への移行期で精神、肉体ともに不安定な時期です。ですから心身ともに気をつけなければいけない時期といえます。この時期を「土用」といいます。(五行説は人生の他に、方位などにも用いられます。(東の青、南の朱、西の白、北の玄となり、それぞれに動物を当てはめます)例えば季節では夏(赤)から白(秋)に変わる時の土用の丑の日には、うなぎを食べる習慣がありますが、この時期は気候も変わり、心身ともに不安定な時期なので栄養のあるうなぎを食べて乗り切ろうという先人の智慧なのです。=江戸時代の平賀源内の発案といわれています)

 このように、人生をいくつかに区切る考え方は、その根底には、怠惰な人間はだらだらと無為に時間を過ごしてしまい、しまりのない人生になってしまうということへの警鐘ではないかと思います。竹の節のように節目、節目でそれまでの人生を反省し、それからの生き方を展望する縁(よすが)としなさい、という先人の智慧なのでしょう。 

ー企業が学生に求めているものー

 さて、卒業生を新入社員として受け入れる側(会社や役所などの職場)では学生にどんな能力を求めているのでしょうか。以前、ある企業の人事担当者に「新入社員に期待する要素は何ですか?」と、聞いたところ次の五つをあげました。これは私の感じているものと殆ど同じでしたのでごく一般的な感想だろうと思います。

1 前向きな姿勢 
 2 相手の気持ちになって考えられる
 3 発想の柔軟性
 4 自分の意見を持っている
 5 素直さ

 また、「企業が学生に何を求めているのか?」、というテーマについて各種の調査が行われていますが、その中の一つを次に紹介します。この表はダイヤモンド誌に2005年2月19日号に掲載されたもので、経営者基礎コース第2回のコミュニケーション・スキルでも紹介したものです。内容は、「新入社員を採用するときに何を重視して採用していますか?」、というアンケートに、各企業の人事担当者が回答したものを上位から列挙したものです。多少古い資料ですが概ね今も似たような傾向と思いますので参考のために掲載します。

順位 重視点           ポイント
 1  積極性  92.3
 2  責任感  86.6
 3  コミュニケーション能力  78.9
 4  協調性  74.2
 5 健康状態             74.2 
 6  業務・社風への適性      69.9
 7  感情の安定性           69.1
  8 リーダーシップ           65.2
 9  論理構成力             64.3
 10  会社や仕事への理解度      55.0
 11  一般的な教養            52.0
 12 専門的な知識技術        44.5
 13 筆記試験の成績         42.3
 14 クラブ・サークル活動の経験  35.2
 15 大学での成績           31.1
 16 語学力                 30.5
  17 パソコンの習熟度          30.0
 18 アルバイトの経験          26.3
 19 大学名                 21.4
  20 資格の有無             19.6
 上の二つの表で赤書きした項目はパーソナリテイに関するもの、青書きした項目はスキルに関するものです。

 特に近年企業の欲求(ニーズ)の高いのがコミュニげーション能力です。逆の見方をすればそれだけ新入社員にその能力が欠けているということも言えます。挨拶から始まり、自分の言いたいことを正確に相手に伝えるプレゼンテーション能力、相手の立場に配慮した態度、あるいは相手の言いたいことを正確に聞くアクテイブリスニング(積極的傾聴)の能力に欠けるということです。そこで紹介したいのが奈良県立王寺工業高校の事例です。この学校は挨拶を徹底して毎年100%の就職率を達成している学校です。(参考:就職率100%を誇る高校〜奈良県立王寺工業高校の事例)

 (参考:就職率100%を誇る高校〜奈良県立王寺工業高校の事例)
 来春の大学生の就職率が、1995年調査開始以来、最低と報道されています。岡山県内でも10月末現在 41.3%との驚くべき低い数字が示されました。
 そんな中、2008年秋のリーマンショック以来の不況にも関わらず、この10年、就職率100%を誇る工業高校が、奈良県にあります。『 奈良県立 王寺工業高等学校 』  先月、「ガイアの夜明け」にも取り上げられましたが、就職率100%だけでなく、就職先の中には、三菱重工・本田技研・トヨタ・シャープなど一部上場の有名企業が並んでいます。
 訪問した方によると、「とにかく礼儀正しく、挨拶が素晴らしい!!!」王寺工業高校も、15年前には大いに荒れていたそうですが、立てなおしの第一歩に「せめて挨拶だけでも」 と指導が始まったとか。
 現在は、入学時から徹底的に指導され、職員室に入る際も、クラス・名前・用件を述べ、声が小さければ、何度でもやり直しをさせられる、そうです。
9月26日の朝日新聞によると、来春卒業予定の206人のうち163人が就職を希望しており、本年8月23日現在で求人票が来ている県内・外の企業が341社。就職先の半数以上が、上記など一部上場企業で、不況の中でも新たに求人票を出す企業も少なくない!! とか。
 事前に訪れる企業の求人担当者が、第一印象が「あいさつの素晴らしさ」 ですれ違う生徒から 「こんにちは!」 とお辞儀され、常日頃からの姿勢に関心して帰るそうです。
 そして9月初旬から、教師による生徒への厳しい面接指導が1週間連日続き、緊張感を出すために、校長や教頭が面接をすることもあります。進路指導の教諭は「期待を頂いている分、いい人材を送り込むため総力を挙げる」 と爽やかに語っています。各種資格取得にも積極的であることはもちろん、「3年間やり通す部活動」にも取り組みとくに「ものづくり」の分野での活動は、とりわけ活発。さらに先輩たちが受けた入社試験の報告書!!を、 進路閲覧室で見ることができ問題や質問内容だけでなく、面接官の人数やテーブル配置なども詳しく書かれており「先輩がつくってくれた道筋に安心感」 を後輩が感じながらチャレンジしてゆきます。『着眼大局 着手小局』いきなり大きな変革からはじめず、本質をつかまえ、できる事から確実に取り組んでゆく成果があらわれ始めたら、目的・目標を明確に見据え、何をすべきかを鮮明にする叡智・経験を積み上げ、それを最大限に活かす工夫をする  王寺工業高校から学んだ事です。

奈良県立 王寺工業高等学校HP: http://www.oji-ths.ed.jp/
本ブログ関連記事2010年3月31日: 

 学校では国語、数学、社会、理科、etc.など能力の中のスキルに関する教科を中心に教育しています。勿論これらのスキルもたいへん重要です。例えば、企業等が社員を採用するときの入社試験は、一般的には@書類選考、A筆記試験(一定水準の学力(スキル)を審査)B面接(社会人として適応できるパーソナリテイの有無の審査)の順で選考していきますので、スキルを審査する筆記試験を通らないと、面接試験を受けられないという現実もあります。
 しかし、上の二つの表で見る限り、企業のニーズは積極性、責任感、コミュニケーション能力、etc.と能力のうちパーソナリテイに関するもの上位を占めています。このことは企業側がパーソナリテイを重要視しているという証です。このように学生が勉強をしていることと、学生を受け入れる企業が学生に望んでいることには大きなギャップがあります。


学生時代にしておきたいことー

 前述のように、「スキルとパーソナリテイのバランスの悪さを調整し、より自己の総合的な能力を高め、一人前の社会人としてやっていけるような能力を身に付けるためには、学生時代をいかに過ごしたらよいのか?」というテーマについて今までの知見から、「やりたいこと発見」、「友人」、「読書」の三点に絞り込んで述べてみます。
  

1.やりたいこと発見

  学生時代の大きなテーマの一つが、「自分が本当にやりたいことを発見すること」です。例えば大リーガーのイチロー選手のように、子供時代に自分の生き方を発見し、着実に実行している人は稀です。殆どの学生は「自分は何をやりたいのか?」、「自分はどんな人生を送ったらよいのか?」、「自分は何に向いているのか?」、「人生で大切なことは何か?」、「そのためには何を勉強したら良いのか?]・・・などの難題なテーマに解決の糸口を見いだせないでいるのではないでしょうか。それはそうです、そんなことを教えてくれるところはないのですから。
 では、前述の山本有三の路傍の石の一説のように、何故「自分が本当にやりたいこと」を発見しなければならないのでしょうか。理由は、人はやりたいことをやっているときに「楽しさ」を感じる事が出来るからです。限りある人生ですから、やりたくないことをやって過ごすより、やりたいことをやって過ごしたほうが、より幸せな人生と言えるでしょう。また、自分がやりたいことならば一生懸命努力しているときに感じる「苦痛」よりも、それ以上の「充実感」を味わうことが出来るでしょう。また、その成果が人から認めてもらえたときには「喜び」を感じることもできます。このように「やりたいこと」を発見し、そのための努力をし「自分らしく」生きることは「幸せな人生」をおくる前提とも言えますし、「後悔しない」人生とも言えます。

1.好きかどうか

  自分がやりたいこと」というと、一見、簡単そうに見えますが意外とが解らないももです。そこで「やりたいこと」発見のヒントとしては、「自分の好きなこと」を発見することです。そのための一番良い方法としては「よい先生」につく、すなわち「人との出会い」です。しかし、これはなかなか難しいことです。何故なら、一般の人にとってそうそうそんな立派な人にめぐり合える機会は多くは無いからです。そこで「出会い」をカバーする方法が「読書です。それでも見つからないときは、「インターネット」を活用することなどいろいろな方法情報を収集してみましょう。それでも見つからない人は「長い時間やっていても飽きないこと」、あるいは「時間のたつのも忘れて夢中になれるもの」を発見することです。音楽、スポーツ、工作、絵画、映画鑑賞、漫画・・・など誰にでも何か一つくらいはあるのではないでしょうか。(参考:牧野富太郎博士)

 参考:牧野富太郎博士
 子供のとき植物採集が好きだった牧野富太郎は、小学校を2年で中退するも、独学で勉強し植物学の発展に寄与しました。その偉大な業績は、後に博士号を送られ、「日本の植物学の父」と呼ばれました。彼の誕生日5月22日は、その功績を記念し「植物学の日」に制定されています。

2.努力し、継続することが大切

 「好きなこと」は継続すべき」です。出来れば一生続けると良いでしょう。好きなことに挑戦しているときは苦よりも充実感が勝りますので長続きしますし、他人(ひと)よりも長く続ければ多少能力の落ちる人でも、人並み以上に能力を向上させる可能性が出てきます。「継続は力なり」の言葉の通りです。そして、人並み以上の能力を習得するということは、「得意なこと」ということになります。得意なことは「自信」につながりその後の人生で大きな心の支えになります。

3.好きなことを活かすー職業
 

 「好きなこと」の先にどんな職業があるかを知ることも一度調べておくといいでしょう。好きなことでも生活できなくては長続きしません。野球がうまい、歌が上手である、英語が得意である・・・などの先にどんな職業があるかを調べておきましょう。例えば、野球ならば、大リーガー、日本のプロ野球、アジアのプロ野球、国内外の独立リーグ、そして社会人野球などです。しかし、人によっては選手としての才能よりも、監督、コーチ、マネージャー、解説者、あるいは球団経営者などに向いている人もいます。そのため、自分の能力がどの程度で何に向いているのかを見極めることも大切です。そして能力に見合った「適切な目標の設定」と、その目標に向かってに「努力」することが必要です。参考:大鵬と三重ノ海

参考:大鵬と三重ノ海
大鵬と三重ノ海は同時代に大相撲の横綱でした。苦労人の三重ノ海は優勝3回でしたが、大鵬は歴代一位の32回優勝というたいへん強い横綱でした。とても相撲では適わないと判断した三重ノ海は相撲を早めに引退し、相撲協会の理事の道を選びました。そして後には理事長として活躍しました。その後引退した大鵬は病気のため相撲協会では思うように活躍できませんでした。 

4.好きなことを活かすー趣味として

  3では、「好きなこと」と職業を結びつけて述べましたが、ここでは「好きなこと」を「趣味として継続していくケース」について述べてみます。
 普通、サラリーマンは「職場」と「家庭」の往復で一日が終わってしまいます。するとストレスを解消するところがありません。しかし、他に「好きなこと」を持っている人は、好きなことをすることでストレスを解消でき、健康面でよい効果が期待できますし、仕事を引退し、第二の人生を歩むときも「好きなこと」が人生をより「豊か」にしてくれます。また、同じ趣味を持つ人と巾広い交流ができます。このように「好きなこと」がある人は、より豊かな人生を送ることが出来ます。

2.友人

 一般に会社などの「職場」は、地位、年齢、学歴やなどいろいろな物差しによって序列化される「縦社会」であるといわれています。ここでは、全ての人が競争相手、利害対立関係になってしまいます。従って、真の友達はできにくくなります。それに比べて学生時代は競争や利害関係が少ない「横社会」といわれています。「同じ釜の飯を食った仲」という表現がありますが、年齢が同じで、同じ時代を、同じ地域で過ごしたなど共通事項が多く、学生時代にはわからないかもしれませんが、卒業してからその大切さを痛感させられるものです。学生時代の友人は人生の宝物と言えるかもしれません。お互いわだかまりもなく、いわば本音でつきあうことができるなどという学生時代は人生の貴重な時期なのです。参考:刎頚(ふんけい)の友(刎頚の交わり)

 参考:刎頚の友(刎頚の交わり)
 この言葉は、「友達のためならば首を切られてもかまわない」という究極の友達関係のことで、中国の故事からきています。この言葉を一躍有名にしたのは、ロッキード事件で国会に証人喚問を受けた,、政商と言われた小佐野賢治が総理大臣田中角栄との関係を問われた際に「刎頸の交わりだ」と答えたことでした。

1.「違いを知る」、そして「自己発見」

 友人は「自分の気がつかない自分の特長に気づかせてくれること」があります。自分の長所・短所、得意・不得意、好き・嫌いなど、意外と自分では気がつかないことは多いものです。自己発見の最も簡単な方法の一つが、友人との比較と言えます。友人の忌憚のない意見は単に否定するのではなく参考にしてはどうでしょうか。

2.知識や情報元として

  気の合う友人でも、生い立ち、得意分野、趣味、性格などさまざまな点で自分と違いますので、自分にない考え方、情報、経験、人脈などを持っています。自分に無い新たな情報、知識、人脈を得る機会が出来ると言うことになります。知識や情報の蓄積は、その人の能力のすそ野を広げてくれます。

 
3.コミュニケーション・スキルが鍛えられる

 社会では人間関係は大変重要です。相手の話をよく聞き真意を理解するとともに、自分の考えをキチンと相手に伝えて理解してもらえるようなコミュニケーション・スキルは非常に大切です。言葉、態度、目つきなどさまざまなコミュニケーション・スキルを上達させる場として、親、家族等と並んで格好の訓練の相手が友人です。
 (携帯電話やメールなどの普及は、コミュニケーション・スキルの能力低下をまねいたといわれています。そのため前述のように近年企業はこのコミュニケーション・スキルの能力を採用するさい非常に重要視する様になりました。コミュニケーション・スキルの中でも特に聴くスキルが重要です)。(参考:経営者基礎コースのコミュニケーション・スキル)参考兼好法師の良い友達」「悪い友達

 参考:「良い友達」「悪い友達」
一寸、特異なのですが、含蓄があり、面白いので参考までに次に兼好法師の友人観を紹介します。どうしてか理由を考えてみましょう。
まず、友人にするのに良い人は、
 @物をくれる人 A医者 B知恵のある人
次に友とするにはよくない人は
 @高貴な人 A若い人 B無病で健康な人 C酒好きな人 D勇敢な人 E嘘をつく人 F欲の深い人
 


3.読書

 「学校の勉強はどうしても知識(スキル)中心になりがちである」ということは前述しました。そのため人間性(パーソナリテイ)の教育まで手がまわりません。それではどうやって豊かな人間性を醸成したらよいのか?ということになります。この問題を解決してくれる最も有効な方法は「優れた人との出会い」です。両親、先生、先輩と自分の身の周りにはたくさんいると思います。優れた人との出会いは自分自身を変えたり、高めたり、方向を示してくれたりと、影響が大きく非常に重要です。そのため積極的に行動したいのもです。しかし、現実にはそうそう優れた人に出会う機会があるものではありません。
 それをカバーしてくれる方法の一つが「
読書」です。良い本との出会いは、優れた人との出会いと同じように自分の生き方を左右したり、向上させてくれたりする効果がありたいへん重要です。読書のポイントは次の通りです。

1.とりあえず好きなものから読む

  読書が苦手な人は、とりあえず、好きなものから読み始めることです。何でもいいですから「活字」に馴染むことです。

2.良い本を選ぶ

 19世紀に活躍したイギリスの評論家ジョン・ラスキンは「人生は短い。この書物を読めばあの書物は読めない」と言っているように、時間的に限られた人生では無限に本を読むことは不可能です。そこでよい本を選択して読む必要があります。参考までに私の読書の選択基準を紹介します。
 また、最近インターネットを利用して調べ物をする機会が増えてきましたが、インターネットは確かに便利ですがその知識は一過性であり、あまり自分の血となり肉となることはありません。また、最近の研究では、脳の発達を阻害するといわれていますので、あまりお薦めは出来ません。

@)出来れば古典を読む

 古典の良さは何十年、何百年という長い時間、人々に受け入れられた普遍的な内容があるからです。

A)学校で教えない分野のもの

 学校で教えている勉強の範囲は人生で必要なことの一部です。ですから読書では学校で教えない分野の本、例えば、人生論、恋愛論、宗教、哲学、思想、偉人伝、歴史などを幅広く読んで知識を広めるとともに、自己の人間性を陶冶しましょう。効果が直ぐには現れるものではありませんが、長い人生の上できっと役にたちます。

B)反対の立場から書かれたものも読む

 「一方聞いて沙汰するな」という言葉があるように、真実は両者の言い分を突合させたうえ、自分の知識や経験などをフルに使って判断しなければ的確な結論は出せません。経営の神様と言われている稲盛和夫氏は必ず両者の言い分を聞き、最後には自分が正しいと思う結論を自分の責任で決断するといっています。
 また、歴史書などは殆ど勝者側からかかれたものですが、敗者側の立場から書かれたものも読んでみることは、ものごとの真理を知る上で大変重要です
昨年、NHKで放送された大河ドラマ「八重の桜」は戊申戦争で敗れ賊軍の汚名を着せられ長い間辛酸を味わされた会津藩を描いた作品です。

C)歴史の重要性

 歴史は大変重要です。歴史の本を読みましょう。グローバル化の昨今、特に日本の歴史、文化はヨーく勉強しましょう。何故グローバル化の時代に日本の歴史、文化なのか。例えば最近韓国に行った学生の話にこんなのがありました。「戦前の日本の朝鮮併合政策をどう思うか?」と聞かれたが彼は日本史は感心がなく殆ど勉強していなかったので返事に窮したと言うことです。また、こんな友人の事例もありました。会議でヨーロッパに行ったとき、会議のメンバー全員が「それぞれ自分の国の文化について紹介しあいましょう」ということになった。しかし、彼はたいへん英語が上手だったのですが、日本の文化には関心が無く勉強もしていなかったため、発表することが出来なかったと言うものです。これではいくら英語が堪能でも相手の信頼はおろか相手にもされません。もっとも軽蔑されるのは、流暢な英語で話しながら自分や自分の国のことを知らない人間です。グローバル化の時代だから英語を勉強するのではなく、自分の国の歴史、文化、アイデンティティを知ったうえで、英語などの外国語を勉強するのです。

ー「動機づけ」と、その先にある「幸せ」ー

アメリカの心理学者マズローは、人間の行動とその原因のニーズ(欲求)を研究し発表したのが段階的欲求説です。古い仮説ですが分かり易い分析は今も多くの人に影響を与えています。(参考:マズローの段階的欲求説

 参考:マズローの段階的欲求説
  マズローの段階的欲求説では、人間の欲求には段階(階層)があり、一つの欲求が満たされると、次の次元(段階)の欲求が生じるというものである。先ず、最低の欲求として「生理的欲求」があります。生命維持のための欲求で他の欲求に優先します。空気、食物、休息、排泄などがあります。次が「安全・保証の欲求」で危険から自分の身を守る欲求をいいます。革新よりも保守(環境が変わることよりも現状に甘んじる)、保護を好む、安定雇用を望むなどです。三番目が「社会的欲求」です。人間は仲間をつくり、交際し、他人に認められたいと望むなどというものです。公式的組織でこれが達成できないと非公式組織でもこれを達成しようと働きます。四番目が「自我の欲求」です。他人から尊敬されたい、認めてもらいたい、地位を得たいと言う欲求です。また、自信を持ちたい、業績を上げたい、意識を得たい、自尊心を持ちたい、自由になりたいという欲求です。五番目は「自己実現の欲求」です。自分の能力を十分発揮したい、自分をもっと成長させたい、創造的独創的でありたいという欲求です。いわば自己自身に対する満足感です。その後多くの学者により修正が加えられ今日に至っています。(後日六番目の欲求があるということが判明しました。それは社会貢献です)

 
 彼の説によれば、人間には欲望があり、その欲望を満たすために行動するというものでした。「美味しいものを食べたい」、「お金もちになりたい」、「いい学校に入りたい」、「いい会社に入りたい」、「エラくなりたい」、というような内容です。これらの欲求(ニーズ)は自分のモチベーション(動機)を高めスキルの向上には必要な要素です。ですからこれらの生きかたを全部否定するわけにはいきませんが、こういう生きかたは一時的な満足は得られても、最終的には幸せは手に入れられません。なぜか?これらの欲求には限りがないからです。例えば1億円稼いだ人は、次は10億円、その次は100億円と欲求が増幅して際限がないからです。

 仏教ではこういう生きかたを「自利」と言います。自分の幸せ、利益を優先するという意味です。自利では一定の喜びは得られたにしても、本当の幸せは得られないといわれています。自利の反対の概念を「利他」と言います。自分だけの幸せを追及するのではなく、みんなの幸せを優先する生きかたです。困っている人がいたら助けてあげるという「思いやりのこころ」を持ち、助けられた人は素直に「おかげさま」と感謝する生きかたです。
天台宗の開祖の伝教大師(最澄)の言葉の中に「亡己利他」という言葉があります。亡己利他の生きかたが人間の最上の生きかたであり、本当の幸せになる生きかたであると言っています。
 あとあと分かったことですが、マズローもそのことには気づいていたようで未公開の文書には「社会貢献」が最上の生きかたであると
書いてあったということです。「亡己利他」も「社会貢献」も意味は同じです。
 自利的生きかたよりは利他的生きかたの方がよいのですが、自利的生きかたもおろそかにはできません。例えば、利他の精神で人助けをしようとしたとき自利的生きかたを全くしていない人がする人助けよりも、自利的生きかたをして能力を高めた人の方が、より大きな人助けができるからです。例えば、

 

まとめ

 嘗ての日本ではスキルとパーソナリテイのバランスの良い教育をしていました。例えば江戸時代の寺子屋などの庶民の初等教育では、読み書き算盤と言われるようなスキルと同時に、他者を思いやる優しい心、「おかげさま」と他者に感謝する心、「ありがとう」いえる素直な心の育成をしていました(参考:エドワードモースの体験)。そして、江戸時代にはそれを形にした「江戸しぐさ(この「学生時代のすごし方」と一緒に「江戸しぐさ」を書いていますが、その中に江戸時代のパーソナリテイ教育について詳しく書いていますのでご参考にして下さい) と言われるコミュニケーションスキルや礼儀作法などにも力を入れていました。また江戸時代の大名が家臣の子弟を教育するために設けた学校である「藩校」においては、学問と同等に武術にも力を入れていました。文武両道です。まさに知育、徳育、体育をバランスよく実践していたわけです。ですから、日本人一人ひとりが世界に類が無いような自然や他者への優しさと品格を持つことができたのです。その結果、アインシュタイン、モース、ラフカデイオ・ハーンから、チャップリンに至るまで、戦前までに来日した多くの外国人が、みな感嘆し賞賛したのです。

 参考:エドワードモースの体験
 明治初期に来日した米国の有名な動物学者、エドワード・モースは、ある日、日本で雇い入れた料理人の子供とその友だちの日本人の10歳くらいの少女ふたりを連れて東京の夜店を散策しました。この二人に十銭ずつ小遣いを与え、何に使うだろうと興味をもって眺めていたところ、ふたりは、道端に座って三味線を弾いている物乞いの女に歩み寄ると、地べたのザルにおのおの一銭を置きました。みずからも貧しい身なりをした少女たちの振る舞いを、モースは驚嘆のまなざしで『日本その日その日』(東洋文庫)に書き留めています)。

 しかし、現在の日本ではスキルに偏重した教育になっていると言わざるをえません。一人前の社会人としての能力を身のつけるためには、今まで述べてきた好きなこと、得意なことを発見したり、教師や友人との出会い、読書などでスキルと同様にパーソナリテイも陶冶し、能力向上に努めてもらいたいと思います。最後に次の「人生を幸せにしてくれる言葉」と、「幸せになれない言葉」を参考までにお贈りします。

人生は
 こころ一つのおきどころ
 楽も苦になり
  苦も楽となる
 

 世間が悪い
 世間が悪い
  世間が悪い
   といい続けて
    終わる一生か
 
(五行歌の会の草壁焔太作を捩ったものです


 
この「学生時代のすごし方」は10年ほど前に、大学生を対象にした書いたものですが、今般、古河第三中学校の「地域の皆さんと語る会」の授業用に再編集したものです。


back